四字熟語、故事成語、ことわざ、オノマトペ(擬音語・擬態語)など、日本語にはたくさんの慣用表現があります。微妙なニュアンスを一言で伝えることができるので、英会話で使いこなせれば発信力は何十倍にもアップしますが、英語で表すにはコツが必要です。先月発売された『英語で言いたい日本語の慣用表現』から、いくつかのコツと英語表現を 抜粋 してご紹介します。
日本語のエッセンスを分かりやすい英語に
「忖度(そんたく)する」といった日本語独特の表現は、「日本語のエッセンス(本質)を簡潔な分かりやすい英語にする」ことが大切です。例えば、「社長の 指示 は率直です。 忖度する 必要はありませんよ」は、次のような英語で表現できます。
The president’s message is straightforward . There’s no need to guess what he’s implying .政治家の発言を機にすっかり「日常語」となったこの語は、「相手の気持ちや考えを推し量る」という意味がエッセンスの部分。上の例のように動詞の imply (ほのめかす、暗示する)とguess(推測する)を組み合わせて表現することができます。メディアではread between the lines(行間を読む)というイディオムで訳されていましたが、これは日本語の「空気を読む」に近い言葉で、例えば次のように使えます。
A: Frankly, I don’t know why he made such negative comments in the meeting.正直言って、どうして彼がミーティングであんなネガティブなコメントをしたのか分からない。B: He got on everyone’s nerves. He really should read between the lines .彼はみんなの神経を逆なでしたね。本当に 空気を読んで くれないと。
シンプルな単語でストレートに訳す
次の会話は英語にするとどうなるでしょう?
A:ご配慮ありがとうございます。時間がかかりましたが、ようやく欧州全体の条件見直しが終わりました。B:こちらの 台所事情 を ご理解 いただき、ありがとうございます。「台所事情」もいかにも日本語!な言い方ですが、要は財政状況や金銭的な都合を指す言葉ですね。シンプルにfinancial situation と表せば十分でしょう。
A: Thank you for your consideration . It took time, but we've finally finished reviewing the conditions across Europe.B: We very much appreciate your kind understanding of our financial situation .これだと言いたいことが伝わりますね。あるいはbudget( 予算 )を使って、「苦しい台所事情」をbe on a tight budget( 予算 が 厳しい 、かつかつだ)のように言うこともできます。
「身体表現」にみる日英の相違点
「胸が痛む」(break one’s heart)や「頭をひねる」( rack one’s brain)など、身体部位に関する表現は、日英で共通する例が多くあります。
I made the gut-wrenching decision to fire him. 断腸の思い で、彼を解雇しました。gutは「腸、はらわた」、wrenchingは「ねじれるような、よじれるような」の意味。まさに日本語の「はらわたがちぎれるようなつらい気持ち」と同じです。
次は、同じ身体表現でも日本語と英語で部位が異なる場合の例。
My jaw dropped to the floor when I saw the annual report .年間報告書を見て 目が点になりました 。「驚いて呆気にとられた」表情を表す「目が点になる」。一言で言うならbe shockedですが、せっかくなら日本語と同じように体を使った語句で伝えましょう。英語では、one’s jaw drops to the floor(顎が床に着くほど仰天する)や leave one’s mouth wide open(開いた口がふさがらない)のように言います。
英語バージョンのことわざに置き換える
日本語のことわざは、似た意味の英語のことわざで表せる場合があります。
Let’s forget about it once and for all. When one door shuts, another opens. もうそのことはきっぱり忘れましょう。 捨てる 神あれば拾う神あり ですよ。「神」が「ドア」になっていますが、one~, another ...(〇〇する~があれば、△△する・・・もある)という発想は日本語と共通していますね。
Nothing you do will be done in vain. Small things make a big difference .やって無駄になることは一つもないんだ。 ちりも積もれば山となる 。「小さな積み重ねが大きな違いを生む」という意味の 希望 を感じさせるフレーズです。Small things add up to make a ...のように add up to (結局・・・になる)を付けて言う場合もあります。これが付くと、より「積もれば」のニュアンスが出ますね。
日本語の意味をかみ砕いて説明する
日本の文化・社会に深く根差した表現は、「概念そのものが英語にない」こともあります。このような場合は、「意味をかみ砕いて、訳の中で情報を補う」必要があります。通訳・翻訳のテクニックの一つで「明示化」と言います。異なる言葉や文化のギャップを埋める手段として、覚えておきましょう。
例えば、次のやりとりは英語でどう表現できるでしょう?
A:カルロスは顧客とのアポを忘れてなければいいんですが。B:もう遅いです。お客さんは しびれを切らして 帰ってしまいましたよ。長く待たされて我慢できなくなったり、待ちきれなくなったりした状態を表す「しびれを切らす」の表し方がポイントですね。
A: I hope Carlos hasn’t forgot his appointment with his client.B: It’s too late. The customer got sick and tired of waiting and has already gone.上の例では「しびれを切らす」を、get sick and tired of waiting(待つことが嫌になって疲れた)と明示化しています。 ちなみに 、正座していて足の感覚がなくなったときの「しびれ」なら、My feet went to sleep.やMy limbs went numb.のように言います。
直訳が通じる超レアなケース
意外なことに、英語と日本語の発想が同じで、直訳が通じる!という場合もあります。
A: Now that your sales network has expanded worldwide , use of the English language has become a must in your daily routine , hasn’t it?これだけ世界中に販路が広がると、英語が日々必要になってきたのではないですか?B: That’s right . I always break out in a cold sweat while in meetings.そうなんです。ミーティングではいつも 冷や汗 の連続ですよ。「冷や汗をかく」はbreak out in a cold sweatで表せます。恥ずかしいときや、恐ろしいときに「冷たい汗」をかく、という感覚が共通しているのは面白いですね。「冷や汗もの」の状況を形容詞一つで言い表したければ、upset(動揺する、ヒヤヒヤする)という語が使えます。
新刊『英語で言いたい日本語の慣用表現』で学ぼう!
「日本語の慣用表現をどう英語にするか」を攻略すれば、「言いたいことが通じない・・・!」というもどかしさを脱却することができます。
『 英語で言いたい日本語の慣用表現 』では、日常生活でよく使われる382の決まり文句を掲載。NHKラジオ講座講師の柴田真一先生と、同時通訳者・放送通訳者として活躍中の鶴田知佳子先生が、「分かりやすい英語にするコツとテクニック」を伝授しています。2人の英訳のプロセスが「訳考」として可視化され、「なぜそう言えば通じるか」がよく分かる大変ユニークな1冊。ぜひ参考にして、発信力アップにお役立てください。
▼購入はこちらから
【トーキングマラソン】話したいなら、話すトレーニング。
語学一筋55年 アルクのキクタン英会話をベースに開発
- スマホ相手に恥ずかしさゼロの英会話
- 制限時間は6秒!瞬間発話力が鍛えられる!
- 英会話教室の【20倍】の発話量で学べる!
SERIES連載
思わず笑っちゃうような英会話フレーズを、気取らず、ぬるく楽しくお届けする連載。講師は藤代あゆみさん。国際唎酒師として日本酒の魅力を広めたり、日本の漫画の海外への翻訳出版に携わったり。シンガポールでの勤務経験もある国際派の藤代さんと学びましょう!
現役の高校英語教師で、書籍『子どもに聞かれて困らない 英文法のキソ』の著者、大竹保幹さんが、「英文法が苦手!」という方を、英語が楽しくてしょうがなくなるパラダイスに案内します。
英語学習を1000時間も続けるのは大変!でも工夫をすれば無理だと思っていたことも楽しみに変わります。そのための秘訣を、「1000時間ヒアリングマラソン」の主任コーチ、松岡昇さんに教えていただきます。