連載「英語パートナーシップ学習」では、英語学習コーチ・メンタルコーチの船橋由紀子さんが、NLP(神経言語プログラミング)やアドラー心理学も生かして、「英語学習を楽しく頑張れる」方法を一緒に見つけていきます。第2回は、「スケーリング学習」です。
目次
「英語パートナーシップ学習」とは?
こんにちは!英語学習コーチの船橋由紀子です。
学習者の皆さんが「自分と、周りと、そして英語と、上手にパートナーシップを結びながら、楽しく英語力をアップ!」していけますようにという思いの下、心理学の要素やコーチとして経験した実例を併せて紹介していきます。
人生初の食あたりで活用した「スケーリング」の話
さて、今回も、英語学習とは全く関係のない私と旦那さんのエピソードからです(笑)。
それは、「海外旅行先での人生初の食あたり」。タイのバンコクで、トイレから出られない下痢と、刺すような腹痛、発熱・・・。なかなかつらい経験でした!
冒頭になぜこんな話を持ち出すのかというと、このとき私たち夫婦が活用した「スケーリング」という手法を紹介するためです。これは、「10点を満点として、その時々のコンディションを数値にして共有する」というものです。
私たちの実際の会話では、こんな感じで使いました。
私:おなか痛い・・・。
旦那:あららら!ちなみに今、体調は10点中、何点?
私:4点かなぁ・・・。
(→薬局に市販薬を買いにダッシュする旦那)
旦那:あ!ちょっと体調良くなってきたね~!今、何点?
私:なんか薬が効いてきたかも。5.5点・・・ぐらい。
旦那:顔色が良くなった。もうちょっとで6点ぐらいになるよ!
このように、スケーリングによる経過観察の結果、10点中4点にまで下がっていた体調は、無事に快方に向かいました(治って本当に良かったです)!
英語学習における「スケーリング」の活用事例
このスケーリングという手法、当然ながら英語学習にも大いに活用できます。
例えば、次のように自分自身に問い掛けてみるのです。
<日々の英語学習について>
Q1:今日の自分の学習の出来は何点だっただろう?
※「今日」を「今週」にすると、ウィークリーの振り返りになります。
<特定の場所・機会について>
Q1:今日の英語会議でのパフォーマンスは何点だっただろう?
<現状と理想について>
Q1:理想状態を10点とすると、今の英会話力は何点だろう?
そしてこれら全ての問いに続けて、次の問いをセットにします。
Q2:そもそも、10点とは具体的に何ができている状態だろう?
Q3:では、現状の点数から1点上げるためには、何ができるだろう?
具体的な答え方は、例えば次のようになります。
Q1:今日の自分の学習の出来は何点だっただろう?
→6点。オンライン英会話のレッスン前に時間がなかった。その結果、レッスン自体もバタバタしていて、やや流し気味で受けてしまった。
Q2:そもそも、10点とは具体的に何ができている状態だろう?
→平日は90分確保!その時間で、次のような学習をする。
- 通勤時間にアプリで単語暗記する
- レッスンの前に、「今日はこれを使うぞ!」というフレーズを幾つかに絞って、目を通しておく
- オンライン英会話のレッスンを受講(「自分の意見を言う」という内容のレッスンを選ぶ
Q3:では、現状の点数から1点上げるためには、何ができるだろう?
→フレーズには1分でもいいからさっと目を通せるはず。もしくはレッスンを遅めの時間に予約する。
こんな感じです。
他にもさまざまなバリエーションがありますが、「状況を数値化する」というコンセプトは同じです。簡単に活用できそうですよね!
なお、Q2は、毎回入れる必要はありません。また、Q1の質問の前にQ2について考えることもあります。
「スケーリング」の3つのメリット
スケーリングのメリットは、次の通りです。
(1) 変化が分かりやすく、効力感が生まれる
スケーリングは、変化に対する積極的な気付きを生みます。さらに、数値が上がった場合は、「できた!」という感覚(成功体験)をもたらします。
すると、「もっとできそうだ!」という、自分に対する期待や自信(効力感)を生み出してくれます。
(2) 現状を受け入れ、分析しやすくなる
とはいえ、数値は当然下がるときもあります。そんなときにも、点数が下がるからこそ、「何があったから、点数が下がったのか?」と、因果関係を観察しやすくなります。
(3) 学習に対して主体的になる
スケーリングとは、「自分で点数を決める行為である」ということにお気付きでしょうか?先ほどの食あたりのエピソードでさえ、痛みに付ける点数は人によって異なります。英語学習における点数の中身ならなおさら、個人の定義に基づいたものになります。
そこでまず、あなたなりの「10点」を決めることで、英語学習に対する基準が定まり、「では、具体的に何をすればいいのだろう?」が見えやすくなってくるのです。
このように、スケーリングは、自分がなりたい姿を主体的、具体的に思い描くきっかけになります。
「スケーリング」するときに起こりがちな3つのパターン
スケーリングとは、「自分で点数を決める行為である」とお伝えしました。これは一方で、「スケーリングに自分の性格のクセが出る」ということでもあります。
ありがちな2つのパターンを紹介しましょう。
(1) ついつい、低めの点数ばかりを自分に付けてしまう
「決めたことを全てできないと駄目だ」というゼロイチ思考に陥ってしまうケースです。
「10点満点の達成が何よりも大事」という意識の高さが、良い結果に結び付くことも大いにあります。その反面、自分を追い込んでつらくなったり、うまくいかないと、物事をリセットしたくなったりする傾向があるかもしれません。
こんな場合、自分自身に対して、「とはいえ、良かったことは?」と問い掛けて、意識的にプラスの部分を探す発想を持てるといいでしょう。見えていないだけで、「あれ、実はできていたかも!」と思えることが発見できるはずです。
ちなみに、上記の逆である「ついつい、高めの点数ばかりを自分に付けてしまう」という方もいらっしゃるでしょう。しかし、そういうタイプに遭遇する割合の方が低いという実感があり(笑)、ここでは割愛しています。
(2) 点数が6~8点をウロウロする
こういう方は、意地悪な言い方をすると、「良くも悪くも、及第点は取れている」という感じです。「やりきった!」という手前でブレーキをかけている、あるいは油断してしまっているとも言えるでしょう。
「やりきる」ことは必ずしも必要ではありません。しかし、こういうタイプの人は、「及第点で止めてしまう」のがクセになっているものの、「やればできる!」という人も非常に多いのです。
この場合、次の問いを自分自身に投げてみることをおすすめします。
ずっと8点でいったら、この先どうなるだろう?
※8掛けで進むことによるさまざまな損失に気付けます。
10点満点中、「12点」ってどんな状態だろう?
※これまでの枠組みを外した状態に思いをはせると、10点は通過点となり、「ほどほど」の状態にメスが入ることがあります。
振り返りツールとして効果的な「スケーリング」
性格のクセが反映されることはあるものの、振り返りツールとして手軽で効果的なのがスケーリングです。
英語に限らず学習全般というのは、「ページ数」「学習時間」「テスト結果」などで進捗を数値化できる部分もあります。
しかし、「学習の質」「集中力」「実感値」「(英会話などであれば)周りの反応」といったものは、数値では測りきれません。そこに、「自らの実感で点数を決める」というスケーリングを活用することで、学習を総括して、主体的に振り返ることができるのです。
さらに、冒頭の「食あたり」のエピソードのように、「誰かにスケーリングを報告する」のも、とっても効果的!
特に、継続的に付き合いのある人とスケーリングし合うと、「同じルールの下に、一緒に頑張れている感」が高まります。
さらに、「自分では気付かないスケーリングの仕方のクセ」に、相手が気付いてくれることもあるのです。その点をフィードバックしてもらうことで、スケーリングの効果や精度は高まるでしょう。
何より、「現状は何点?」「そこから1点上げるにはどうしたらいい?」という、とてもシンプルな質問で、現状を良くするきっかけを得られる、それがスケーリングです。
どうぞ、ご参考になりますように!
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