「英語を学び、英語で学ぶ」学習情報誌、ENGLISH JOURNAL(EJ)。2019年11月号ではファッションに関するさまざまな英語表現をご紹介しています。トレンドワードや英米での表現の違い、実は和製英語なあのファッション用語まで、服飾史家の中野香織さんが解説します。
服飾史家、株式会社Kaori Nakano総合研究所代表、昭和女子大学客員教授。東京大学大学院修了。イギリス、ケンブリッジ大学客員研究員、明治大学国際日本学部特任教授を歴任。新聞・雑誌・ウェブメディアに連載記事を多数執筆するほか、企業の顧問教授を務める。著書に『ロイヤルスタイル 英国王室ファッション史』(吉川弘文館)などがある。
公式ホームページ: www.kaori-nakano.com
- 出版社: アルク
- 発売日: 2019/10/04
- メディア: 雑誌
トレンドワードが語る世界情勢:warcore
地球上の至るところで戦争やテロ、暴力事件が起きています。自然災害も増えており、大地震もいつどこで起きるかわかりません。そんな状況を受けたファッションアイテムが続々、提案されています。弾丸やナイフを通さない繊維で作られたベスト。体にくくりつけるハーネスバッグといったものです。
そこまでの武装ではなくても、スーツやドレスにスニーカーを合わせることは普通になりつつあり、パーティーでも動きやすいジャージのズボンという姿を見掛けるようになりました。いつ何が起こっても衣服や靴に妨げられることなく避難できるスタイルの流行。warcore の誕生です。
これはwar + core から成る造語ですが、この core はhardcore(筋金入りの)の core で、2014 年からの一大トレンドだったnormcore(筋金入りの普通) の core を受け継いでいます。normcore のアイコンには例えば故スティーブ・ジョブズなどが挙げられます。
さらにその進化形として、2017 年にはgorpcore が生まれました。gorpとは、good old raisins and peanuts の頭文字をとった言葉で、ナッツやフルーツなどをミックスしたスナックのこと。栄養価が高いのでハイキングの必需品とされています。Patagonia やThe North Face などのアウトドアブランドの人気が後押しした、サバイバル重視の超実用ハイキングスタイルです。
その延長がwarcore です。これは戦争(war)に備えるかのような街中での日常的武装を指します。外敵から身を守り、過酷な状況でも生き抜くことが衣服を着る第一目的になった時代を、皮肉にも映し出しています。従来のファッショントレンドとしてのmilitary(軍隊)は、戦場という文脈から切り離された形で、平和な街の中で着用されていました。しかし、warcore には、今日、必要となってもおかしくはないリアリティーがあるのです。
2019年のトレンドワード:camp
毎年、旬な文化的テーマを掲げてファッション展を開催する「メトロポリタン美術館コスチューム研究所」は、2019 年の展覧会のテーマをcampと発表しました。
campとは、芝居がかっていたり、過剰であったり、悪趣味だったり、皮肉が効いていたり、ゆえにたまらない魅力となるような感覚のことです。1964 年にスーザン・ソンタグが『「キャンプ」についてのノート』を書いたことで広く知られるようになりました。「常識」を振りかざす社会に対して立ちはだかり、過剰なほどの皮肉を効かせ、挑発してみせるところにcamp の真骨頂があります。
近年、とりわけGUCCI が仕掛けるtacky がもてはやされていました。悪趣味すれすれでダサいのがアーティスティックですてき、という感覚です。camp はtacky をさらに劇場型に押し進めたような美意識でもあるのです。
展覧会を企画した学芸員のアンドリュー・ボルトンは「ニューヨークタイムズ」のインタビューに対し、次のような趣旨を語っています。「現代の私たちは多くの領域でcamp なものにさらされている。トランプ大統領もとてもcampな人物だ。このテーマはタイムリーだと思う」。なるほど、良識に逆行する劇場型悪趣味と呼べる言動を重ねる大統領もまた、camp にくくられるとは。
ファッションを語る形容詞:prettyからkawaiiまで
日本人は、「かわいい」が大好きです。とはいえ、「かわいい」にもいろいろな種類があります。
まずはpretty。この英語は本来、「ずるい」という意味をもって生まれました。長い歴史のプロセスを経て、ずるい→利口な→巧みな→立派な→快い→かわいい、というゴールにたどりついたのです。
また、同じく「かわいい」と訳される英語に、cuteがあります。この語の語源は、鋭敏なさまを意味する acute 。
ちなみに 、日本語がそのまま英語になったkawaiiは、今や世界で通用する最も有名な日本語の一つでしょう。マンガ、アニメ、コスプレ、ゲーム、フィギュアはもちろんのこと、江戸文化、ご当地キャラクター、浮世絵までもがkawaii 世界を構成します。
女性誌に頻出する elegant も、「優雅な」さまに使われるとはいえ、実はくせのある英語です。語源には 「注意深く選ぶ」という意味があります。かつては、注意深く選ぶことは、気難しいこととほぼ同義で、 従って エレガントが非難の言葉として使われていた時期もあったようです。それが時を経て、注意深く選んだアイテムを身に着けていたり、注意深く選んだ言葉や振る舞いを社交の武器として使えたりすることが「優雅な」こととして褒められるようになりました。
ジーンズとデニムの違いは?
EJ2019年11月号では、定番のアイテムである「ジーンズ」と「デニム」の違いや、「チノパン」の語源なども紹介しています。また、イギリス・アメリカ・日本で「ジャンパー」と呼ばれる洋服が指すのは一体何なのか、にも迫っています。
ノースリーブ、ピンヒール、パーカー、ワイシャツ……それって本当に海外でも通じますか? といった要注意な和製英語もまとめてご紹介しています。ぜひチェックしてください!
- 出版社: アルク
- 発売日: 2019/10/04
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構成:江頭茉里(ENGLISH JOURNAL編集部)
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