カンバーバッチの人柄に感動!アナウンサー小熊美香さんの英語インタビュー術

2008年、日本テレビにアナウンサーとして入社以来、報道番組「news every.」での現場取材や、情報番組「 ZIP !」で数々のハリウッドスターに英語でインタビューするなど、情報・報道・スポーツ・バラエティーと幅広い分野を担当された小熊美香(おぐま・みか)さん。2017年、第1子の出産を機に日本テレビを退社した現在は2児の母の傍らフリーアナウンサーとして活動しています。スターへの取材の事前準備や質問する際に気を付けること、おすすめの英語学習法などについてお聞きしました。

スターへの取材は事前準備が重要

私は日本テレビ在籍中、情報番組「 ZIP !」で20人以上のハリウッドスターをインタビューしました。スターたちのスケジュールは分刻みですから、 限られた時間の中で相手に心を開いてもらい、その人の本音や魅力を引き出す会話をするためにどうしたらいいか、試行錯誤しながら取材 しました。その中で痛感したのは、やはり事前準備の重要性です。

いちばん印象に残っているのは、2015年12月、アメリカ、ロサンゼルスで行われた『スターウォーズ フォースの覚醒』のワールドプレミア。レッドカーペットを歩くハリソン・フォードさんを呼び止めて、急きょ取材することになったのです。

世界中からメディアが集まっているので、足を止めてくれる かどうか はご本人次第。そんな中、頑張ってぐっと前に出て、なんとか呼び止めることができました。ところが、そこで頭が真っ白になってしまって・・・出てきた質問が“Are you excited?”(盛り上がっていますか?)

本当に後悔しています。誰にでも聞けるような質問ですし、回答は短く済んでしまいます。実際、答えは“Yes” の一言でした。続けて他局の方が質問されたのでお話は聞けましたが、本当に悔しい思いをしました。しっかり準備をしておくことが大切だと痛感しました。

質問はシンプルで短い文を使う

新作映画のプロモーションで来日したスターを取材する機会も多かったのですが、そのときにはどんな準備をしていたか、簡単にご紹介しましょう。

まず、 その映画作品を見ておくのはもちろんのこと、海外で本人がすでに受けているインタビューの記事や映像もチェック します。映画に関する情報だけでなく、最近お子さんが生まれた、引っ越したなどの、プライベートなニュースにも目を通します。その上で、5、6問の英語の質問を用意します。

インタビュー中はその紙を見る時間がないので、用意した質問は何度も読み上げて暗記します。 ポイントは、背伸びせず、なるべくシンプルで簡単な英語を使う こと。緊張すると、英語がパッと出てこないことも多いので、できるだけ短い文でシンプルに構成します。

来日したスターをインタビューできる時間は、通常10分程度です。皆さん、朝からインタビュー会場に缶詰めになってたくさんのインタビューを受けていることが多いので、大変お疲れのこともあります。インタビュー会場に入った瞬間に 相手の顔色や表情を見て、 すぐに 話し掛けて雑談をするのがよいのか、無理に話し掛けず静かに準備が整うのを待つ方がよいか、などを 判断 します。

2015年6月、来日中のオーランド・ブルームさんに「 ZIP !」で取材。

自分の考えを伝えて親近感を

インタビューでは、相手に気持ちよく話してもらうために、二つのことを心掛けていました。

一つ目は、最初に“I” を主語にした言葉を伝える こと。私は必ず、“I watched the movie, and I thought that . . .”(映画を見て、私は・・・と思いました)と、映画を見た感想を言うようにしていました。例えば映画に子どもが出演していた場合、「私が子どものときも、〇〇という経験をしてうれしかったです」「もし私に将来子どもができたら、この映画のように〇〇をしてあげたいです」など、自分の経験に基づいた感想を言うこともありました。やり過ぎると時間がなくなってしまうので、さじ加減は難しいですが、自分の経験や考えを伝えることで、少しでも親近感を持ってもらい、「インタビュー」ではありますが、会話を楽しんでもらえるよう心掛けていました。

二つ目は、笑顔 です。これは、高校生のときのカナダ留学の経験から学んだことです。当時は英語が全然できなかったのですが、いつも元気に笑顔でいるようにしていました。すると友達に“You are the happiest person I’ve ever met!”(これまでに会った人の中でいちばん幸せそう!)と言われたんです。それがとてもうれしくて、どんなときでも笑顔でいることが大切だと思うようになりました。

ハリウッドスターへのインタビューの最後には、ちょっとしたプレゼントを渡すこともありました。お子さんがジブリ作品好きだという俳優さんには、「お子さんに」と、トトロのぬいぐるみをお渡ししました。相手の名前を当て字で漢字にしてステッカーを作り、差し上げたことも。 ちょっとした日本の思い出になると思いますし、「日本に来てくれてうれしい」「インタビューを受けてくださってありがとう」という気持ちが伝わったのではないか と思います。

2015年に『チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密』という映画のプロモーションでジョニー・デップさんが来日されたときのインタビューでは、ちょっとしたサプライズを用意しました。

取材のときのデップさんは、比較的落ち着いたトーンでお話しされていることが多いです。この作品では口ひげがある役を演じていらっしゃったので、インタビュー中に私が「ちょっと失礼します」と手で口を覆ってくしゃみをして、その隙に手の中に隠し持っていたちょびひげのシールを自分の口元に付けるという、小さないたずらをしました。デップさんは「Wow!」と驚いて笑ってくれました。こうしたいたずらは「やり過ぎ注意」ではありますが、場が和みますし、普段なかなか見られない表情を見せてもらえることがあるのです。

2015年1月、映画『チャーリー・モルデカイ 華麗なる名画の秘密』のレッドカーペットで、主演のジョニー・デップさんへ取材。

電話インタビューで伝わる紳士的な優しさ

インタビューは、必ずしも対面で行うものばかりではありませんでした。2015年に行った、ベネディクト・カンバーバッチさんの電話インタビューは、とにかく苦労しました。電話だと表情がわかりませんし、対面よりも声が聞き取りにくい。しかも、私が慣れていたアメリカ英語ではなく、イギリス英語です。相づちを打つのも難しく、自分の力 不足 を痛感したインタビューでした。

最初に、“I’m sorry my English is broken.”(つたない英語ですみません)と謝ったのですが、カンバーバッチさんは「そんなことないですよ」と返してくれて、その後も優しくゆっくりと話してくれました。「なんて紳士的なんだろう」と、カンバーバッチさんの人柄にも感動しました。

単語やイディオムは例文を丸暗記する

振り返ると、私がいちばん集中して英語を勉強したのは、高校1年生の頃でした。翌年のカナダ留学を前に、英語を頭に入れられるだけ詰め込んだのです。特に頑張ったのは、ボキャブラリーの 強化 です。例えばピアノだって「ドレミファソラシド」がわからないと弾けませんよね。 英語の音を一つでも多く頭に入れようと、毎日、通学電車の中で単語帳を広げ、家では声に出して読んだり書いたりを繰り返しました。

単語や熟語は、例文をそのまま暗記するようにしました。単語や熟語だけ覚えていても、実際にどう使ってよいかがわかりません。でも 例文が頭に入っていれば、主語やほかの単語を入れ替えるだけで実際の会話で使えるようになりますし、どんな場面で使うとよいかといったシチュエーションも含めて頭に入ります。

アナウンサーになってからは、仕事も忙しく、集中して英語を学ぶ時間はなかなか取れませんでしたが、俳優の方を取材することも多いので、映画は英語で見るようにしていました。日本語の字幕付きで見るのがポイントです。 できる限り音声だけで理解するようにし、わからないフレーズが出てきたときだけ「答え合わせ」として字幕を見ます。

英語でのインタビューを重ねるうち、 「難しい言葉や言い回しは必要ない」 ことがわかってきました。もちろん、ビジネスなどで英語を使うようになれば 改めて 学び直す必要があるかもしれませんが、 インタビューでは日常会話ができれば十分。こちらが一生懸命話せば、相手は必ず聞いてくれます。

現在、3歳と0歳の子どもを育てていますが、子どもたちが日本語を覚えるステップを見ていると、英語学習の参考になります。子どもたちは難しい本を読んだりしなくても、どんどん話せるようになっています。背伸びをせず、興味に応じて少しずつ範囲を広げ、自分が楽しみながら学び続けられればと思っています。

2015年6月、映画『インデペンデンス・デイ:リサージェンス』(2016)でローランド・エメリッヒ監督(前列の左から4番目)と、各国の記者たちが集まった映画の撮影現場。小熊さん(前列の一番左)はリポーター役として撮影に参加。

特集「モテ英語のルール10」をEJ6月号でチェック!

※本記事は、『ENGLISH JOURNAL』2021年6月号特集の内容を再構成したものです。

取材・文:大井明子

ENGLISH JOURNAL ONLINE編集部 「英語を学び、英語で学ぶ」学習情報誌『ENGLISH JOURNAL』が、英語学習の「その先」にあるものをお届けします。単なる英語の運用能力にとどまらない、知識や思考力を求め、「まだ見ぬ世界」への一歩を踏み出しましょう!

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