Fine, thank you. って英語は言っちゃダメ?それってホントにホント?

Fine , thank you . のようなフレーズは、学校では習うけど日常会話では使わないとよく聞きます。でも、本当にそれは正しい意見なのでしょうか。アルクの本『本当はちゃんと通じてる!日本人エイゴ』の著者、カン・アンドリュー・ハシモトさんに教えていただきます。

面白くてやめられない。72人のネイティブに聞き取り調査!

3年位前だったかな。アルクの編集者と面白い打合せをしました。彼女は英語の例文がいくつも書かれた紙を僕に手渡してこう言いました。

編集者:これ、どう思いますか?
僕:え、どうって?
編:この例文はみんな、「こんな言い方はしない」「こんな英語じゃ伝わらない」「この英語は間違ってる」と言われている英語表現なんです。

僕はもう一度その紙を見直してみました。「冠詞がある方がいいよね」とか「ちょっと誤解があるかも」というものもあったけど、「え?どこが間違ってるの?」という英文もたくさんありました。

僕:間違ってないのもいっぱいあるよ。
編:どれですか?
僕:たくさんあるよ。たとえば、この How are you? ? Fine , thank you . And you? なんてどこが問題なの?
編:この例文は「こんな言い方はしない」と言われてる代表格です。
僕:言われてるって、誰がそんなこと言ってんの?
編:誰とかじゃなく、定説になってます。ネットにもバンバン書いてあります。
僕:そうなの?!
編:そうです!

こんな経緯があって、僕はそれらを調べることになりました。

日本人が使いがちなんだけど、でも「こんな言い方はしない」「この英語は間違っている」と定説になっている例文をどう思うか、英語を母語とする僕の友人たちに意見を聞いてみてほしい、そんな企画でした。

聞きましたよ。途中から僕自身も面白くなってしまって、聞きまくりました。

日本で暮らし日本で仕事をしているアメリカ人、イギリス人、カナダ人の友人たち。そして僕がまだミュージシャンだったころに付き合いがあったハリウッドのミュージシャンたち。僕が学生時代を過ごしたウィスコンシン州のかつてのクラスメートたち、アメリカで暮らしている親戚や彼らの友人、ご近所の人たち、めいっ子の学校の先生まで、 合計72人から全ての例文に対して意見をもらいました

日本で暮らしている人たちは、日本人が使う英語の 傾向 を知っています。でも、かつてのクラスメイトのなかには「日本人の母語って中国語?」と聞く人までいましたから、そんな人たちは日本人がこんな英語を使いがち、なんてことを知るはずもありません。

では、そんな英語のいくつかを見てみましょう。

不自然で古い言い回し?

1つ目はこの表現です。

How are you? ? Fine , thank you . And you?
*定説*「不自然なやりとり」「実生活では使わない」「古い言い回し」

この英語に関する、さまざまな人たちの意見はというと…。

「不自然だ」「こんな言い方は古い」と言った人は 72人中1人もいませんでした

“Not good? Why not?”(ダメ?何で?)
No problem .”(問題ない)
“I think it’s fine .”(その言い方でいいと思う)

言葉は違っても意見はみな同じでした。

では、なぜこんな定説が生まれてしまったのか。

「こういうことを言うと話題になるからよ。日本で英語を学んでいる人たちの90パーセントくらいが使う言い回しだから、ちょっとからかわれちゃったのよ」

これは英語の教育番組に出演をしたこともあり、日本の大学で講師をしているアメリカ人女性の意見です。

僕自身もこの表現がおかしいとは全く思いません。

だけど、こんなことを感じたことがあります。日本人は“How are you?”と聞かれると、きっと10人が10人、“ Fine , thank you . And you?” と応えますよね。前述の女性は90パーセントと言ったけど僕はもっと多いと思っています。

このやり取りを交わした数がある程度増えてくると、「なぜみんな fine なんだ?元気じゃないときもあるはずだよね」と感じ始める。そう思ったことがある英語のネイティブスピーカーはとても多いはずです。

「当たり前だよ、彼らは学校でそう習ってきたんだから」

これは有名私立高校で英語教師をしていたアメリカ人男性の意見。「僕は問題があるとは思わないよ」とも。

そう、この例文は間違ってなどいません。だけど人のご機嫌は fine じゃないときもきっとあるはず。同じ「元気」でも「元気レベルの違い」によって別の表現も使えると楽しいですよね。

Perfect. / Good. / Not bad. / I’m OK.とか。

でも、最もシンプルでノーマル、ナチュラルでありフォーマルな場でも使える “How are you?” “ Fine , thank you . And you?”から学ぶことに全く問題はないはず

で、慣れてきたら少しずつ自分の体調に一番合う言い方を、少しずつ覚えて言ってみる。そんな感じでどうでしょう。

感謝 の気持ちが伝わらないお礼の表現?"> 感謝 の気持ちが伝わらないお礼の表現?

2つ目の表現はこれ。

Thank you very much.
*定説*「イヤミっぽく聞こえる」「これで 感謝 の気持ちは伝わらない」

「イヤミっぽく聞こえる」「これで 感謝 の気持ちは伝わらない」と言った人は、 72人中やっぱり1人もいませんでした

カリフォルニアで医者をやっている僕の弟は笑って言いました。

「僕は患者さんから毎日、 Thank you very much. と言われてるよ」

じゃあなぜ「イヤミっぽく聞こえる」なんて言われてしまうのか。

「そりゃイヤミっぽく言ったらイヤミっぽく聞こえるんじゃない?」

日本で教育教材の音声を数え切れないほど担当しているアメリカ人ナレーターがそう言いました。 Thank you very much. をイヤミっぽく言う機会って多くないと思います。でも、僕にはちょっと思うことがあるのです。

日本の人って「ありがとう」と言うことが、割りと苦手ですよね?

音楽スタジオにとても古い、でもきれいな車で乗りつけてきた人に「あなたの車カッコいいですね」と僕。「イヤイヤ、あれもう10万キロも走ってるんですよ」と応える彼。

「○○さんが書く字は本当に美しいですね」と僕。「いえいえ、私パソコンで請求書を作れないんで、だから手書きなだけなんです」とその人。

笑顔で素直に「ありがとう」って応えたりしないんだな、と僕はときどき思うのです。「イヤミっぽく聞こえる」と言われてしまう 原因 は、そんなところにもあるのかもしれません。

例えば日本語には、一人称を表す言葉として「わたし」「ぼく」「オレ」などたくさんの種類があります。二人称にも「あなた」「君」「お前」「あんた」などがあります。でも、英語にあるのは「I」と「you」だけ。

日本語では、使う言葉を選んだ段階で、すでに丁寧さのレベルがある程度決まってしまいます。だから、「あなた」か「君」か「お前」のどれを使うかが大切になってくる。言い方はそれほど重要ではないのかもしれません。

一方、「you」しかない英語の場合は、 Thank you very much. の言い方が、その言葉のニュアンスをずっと大きく左右すると思うのです。

皆さんも 照れずに心を込めて Thank you very much. と言えば、「イヤミっぽい」なんて言われない はず。

聞き返すのが失礼になる表現?

最後はこの表現です。

Pardon? / Excuse me?
*定説*「失礼な言い方」「とがめる言い方」

「失礼な言い方で言うと失礼に聞こえるよ、そうじゃないなら何も問題はない」。これがこの例文に対する結論です。 Thank you very much. と同じです。

たとえば、あなたが何か失礼なことを言われたとします。そのときにあなたは頭に来た。で「何ですって?もう一度言ってみてください」と怒りに震えながら言う。こんなときに英語では“Pardon?”とか“Excuse me?”と言ったりするのです。このときの言い方は重要です。怒りに満ちあふれているわけだから、相手をにらみつけてゆっくり言う必要があります。そうすれば「何だって?もう一度言ってみろ」というニュアンスが表現できるはず。

でも、ここでのポイントは「え?聞き取れませんでした?もう一度言ってくれませんか?」と単に聞き返したいわけですから、その ちょっとお願いするような気持ちを込めて言えばいい だけです。

心を込めて言うこと、気持ちを伝えようと思うこと――それさえ忘れなければ、大きな誤解は起きないはずです。

まとめ

「この言い方で合ってる?」「こう言ったら誤解される?」など、 心配 しすぎると話せなくなってしまいます。それに、そんな気持ちを持ちながら会話しても楽しくないでしょう…。

コミュニケーションは本来楽しいモノであるはず。 間違えたら言い直せばいい だけです。ほんの少しの勇気を持って会話を楽しみましょう。

カン・アンドリュー・ハシモトさんの本

本連載のベースとなっている、英語学習者が目からウロコの本です。

本当はちゃんと通じてる! 日本人エイゴ
  • 作者: カン・アンドリュー・ハシモト
  • 出版社: アルク
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  • メディア: 単行本
 
カン・アンドリュー・ハシモトさんの新刊です。
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カン・アンドリュー・ハシモト
アメリカ合衆国ウィスコンシン州出身。教育・教養に関する音声・映像コンテンツ制作を手がける株式会社ジェイルハウス・ミュージック代表取締役。英語・日本語のバイリンガル。公益財団法人日本英語検定協会、文部科学省、法務省などの教育用映像(日本語版・英語版)の制作を多数担当する。また、作詞・作曲家として、NHK「みんなのうた」「おかあさんといっしょ」やCMに楽曲を提供している。2018年7月より9作目の著作『外国人に「What?」と言わせない発音メソッド』(池田書店)が発売中。

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