日本語になった英語はたくさんあります。日本生まれの英語のような日本語もあります。そんな言葉をネイティブスピーカー相手に使って通じるの?『本当はちゃんと通じてる!日本人エイゴ』の著者、カン・アンドリュー・ハシモトさんに教えていただきましょう。
外来語ってそのまま通じるの?
日本人が使いがちなこんな英語、実際のところどうなの?
伝わらないの?
間違ってるの?
そんなフレーズを取り上げ、英語のネイティブ・スピーカー72人から意見を求めた、という連載の第2回目です。
今回は英語を学ぶうえで助けになるのか、それとも足かせになるのか、何だか悩ましい「外来語」についてお話ししようかなと思います。
sign ?">サインは sign ?
まずはこれ。
有名人に「サインをください」というつもりで、
Can I have your sign ?これってホントに意味不明?
実を言うとアルクさんから手渡された「この英語フレーズ、間違っているんでしょうかリスト」(50くらいあったフレーズ)の中で、 これが最も「んんん・・・通じないかも」と思ったもの でした。
sign は名詞だと「しるし」という意味とか「シンボル」という意味。
日本語の「サイン」が意味する「スターなどの名前が直筆でかかれたもの」(autograph と言います)という意味はありません。
road sign と言えば「道路標識」のことですし、dollar sign といえば「$」のこと、percent sign は「%」、sharp sign や flat sign は音楽で使われる「#」や「♭」。
つまりすべて「しるし」を意味しています。
ただこの sign 、動詞のときは「名前を書く」「署名をする」という意味に変わります。 Sign your name here. は「ここに署名して」という意味。日本語の「サイン」はここから来ているのでしょう。
銀行などで耳にするのが、I need your signature here.(ここに署名が必要です)。 sign a contact なら「 契約 を結ぶ」、 sign on with NHK なら「NHKと 契約 する」ということ。
「署名をする」ということから意味が広がったのだと思いますが、動詞の sign には「 契約 をする」とか「仕事に就く」といった意味もあります。でも名詞の sign では「名前」という意味は消えてしまっています。
「サインをください」というのであれば Can I have your autograph? が正しい。
signature は 契約 書や小切手などに書く署名のことで、ハリウッドスターや著名な作家、大統領といった有名人の名前が書かれた「サイン」は autograph というのです。
一応これが正論。
sign じゃないけど…">有名人のサインは sign じゃないけど…
全く通じないのではと思った sign でしたが、何と72人中16人(22%)は
I can imagine.(想像できる)
I would assume so .(推測できると思う)
と答えました。
こんな意見もありました。
「もしもあなたが有名人だとする、知らない女の子がペンと紙を持って、あなたのシルシをお願いします、と近付いてきたら autograph に決まってるじゃない、It’s obvious!(分かりきってるわ)」
さらにこんな意見も。
「your sign と言って、 何?って顔されたら your name と言い直せばいい じゃないか」
「いやいやもっとカンタンな方法がある、autograph が欲しい女の子は、その有名人に 紙とペンを見せて May I? とだけ言えばいい んだよ、それで分からない人はいないだろう。もしも分からなかったら、そいつは頭が悪すぎるからファンなんてやめた方がいい」
「それか、分からないフリしてるだけとかね」
「それならますますファンをやめるべきだと思う」
「賛成だ、絶対にやめるべきだ」
ちょっとお酒が入る席で僕が友人たちに意見を求めたということもあって、こんな風に会話が進んだのですが、最終的には「異文化間コミュニケーション(Cross-cultural communication )で、大切なモノは想像力と思いやり」という、とても当たり前の結論になりました。
僕の職業は英語の先生ではないので、敢えて次のように言いたい、と思います。
実際の会話では、表情とか状況のような、口から出た言葉だけではない、多くの情報が存在すると思うのです。この場合は相手が有名人であることや、私が紙とペンを持ってその人を待っているってことがそれに当てはまります。話しかけてみて「ん?」って顔をされたら、 傷ついたりせずに別の言い方でもう一回言ってみる ということが、大切だと思うのです。
フロントってどこのこと?
次はこれ。
「(ホテルの)フロントで会おうよ」のつもりで、
Let’s meet at the front.そんなふうに言っても決して会えない?
「問題なし」と言った人は少なかったです(72人中10人=14%)。まあ、今回はそういうフレーズを紹介しているのですが。
英語の front は「前面」「正面」「先頭」という意味であって、日本語が意味する「ホテルのロビー」とか reception、front desk という意味はないんです。
「日本語のフロント」の意味を知らない海外の友人の多くは、この英文に対して意見を求めている時に“Front of what?”(何の前ってこと?)と聞き返して来ました。
だから、やっぱり実際の会話のなかでは、日本人が“Let’s meet at the front.”と言ったとしても、相手は“Front of that coffee shop? Or front of this building?”(あのコーヒーショップの前ってこと?それともこの建物の前?)など聞き返し、「え、ホテルの中?1階?あ、ホテルのロビーってこと?」となって、結局は会えるんじゃないかな、と思うのです。
だって、待ち合わせ場所が何の前か分からないまま「オーケー!何時?」という人、いないですよね。
「サイン」の例と同じです。 相手が「?」って顔をしたら別の言い方でもう一度言ってみる 、そうすれば必ず会えます。
英語の外来語あれこれ
今回ご紹介した「サイン」「フロント」を始め、日本語には外来語がとても多いですよね。
「サイン」「フロント」「ストーブ」「コンセント」「マンション」のように、本来の意味とは別の意味の日本語になってしまっている語があります。
また、「コンビニ」「ファミレス」「インテリ」「スマホ」「スーパー」「アパート」「デパート」のように省略されて定着している語もあります(これすごい数です)。
さらに、「ホッチキス」「ブラインドタッチ」「段ボール」「スキンシップ」のように、一見外国から日本に来たように見えるけど、どう考えても日本で製造された語など、外来語はほんと、さまざまです。
外国語を覚えるのには便利 かもしれない ですけど、意味が変わってしまったものは、ちょっと紛らわしいですね。
でも大丈夫、言い直せばイイ のですから。(しつこい?)
英語になった日本語もついでに…
英語にも日本語から来た言葉がありますよ。
有名なところでは tsunami(津波)kawaii(かわいい)、manga(マンガ)、bento(お弁当)、sake(日本酒)、mottainai(もったいない)あたりでしょうか。
そのほかにも、emoji(絵文字)、anime (アニメ)、otaku(オタク)、cosplay(コスプレ)、karaoke(カラオケ)、shiatsu(指圧)、sudoku(数独)など。
カリフォルニアに住む僕の弟は「えぇ?! karaokeって日本語?ホントに?どんな漢字?」と本気で驚いていました。アメリカ人は karaoke を「キャリオゥキ」のように発音するので、思いつかなかったんですね。
僕が驚いたのは anime。20年以上前、僕はニューヨークのトイザらスで「宮崎アニメ」のコーナーを見つけ、そこの棚に anime とありました。 cartoon ではなくて anime。その言葉を英語で見るのは初めてでしたから、今でもその風景をはっきりと覚えています。
sudoku の文字をアメリカで初めて見たとき、「ふーん、このパズルは日本で生まれたのか」と思ったのですが、実はアメリカ人が考えたものらしいです。
ちょっと不名誉?なところではkaroshi(過労死)、zangyo(残業)、hikikomori(ひきこもり)でしょうか。
アメリカでは商品のことを企業名で呼ぶことが多いので、車はToyota、Honda、Subaruなど製造会社名で呼ばれます。
ファミコンは Nintendo で, カメラは Nikon(発音はナイコォーンのような感じ。Canonのカメラを持っていてもそう呼ぶ人がいます)。炊飯器は Hitachi と呼ばれることが多いですね。イギリスには Wagamama という有名な和食チェーン店があります。意味不明です。
まとめ
言葉って国を超えて大活躍するモノもあるし、意味が変わって定着するモノもある、面白いですね。
誤解があってもそれも面白がりながら、コミュニケートしましょう 。
きっと楽しいと思います。
ではまた次回。
カン・アンドリュー・ハシモトさんの本
本連載のベースとなっている、英語学習者が目からウロコの本です。
Marathon ">カン・アンドリュー・ハシモトさん監修のアプリ Talking Marathon
「話す」ためのトレーニングができるアプリも登場。 ぜひお試しください!
英語を聞けば話の内容は分かるのに、自分がしゃべるとなるとなかなか言葉にならない、そんな人、多いのではないでしょうか。 話さなければ上達しないことは分かっているけど、英語を話す相手もいないし・・・という人にぴったりのアプリです! Talking Marathon ! (僕が監修をしています)alc.talkingmarathon.comスマホ相手なので予約も通学も必要なく英会話のトレーニングができます。フレーズはアルクのキクタンシリーズがベースとなって制作されています。
カン・アンドリュー・ハシモト
アメリカ合衆国ウィスコンシン州出身。教育・教養に関する音声・映像コンテンツ制作を手がける株式会社ジェイルハウス・ミュージック代表取締役。英語・日本語のバイリンガル。公益財団法人日本英語検定協会、文部科学省、法務省などの教育用映像(日本語版・英語版)の制作を多数担当する。また、作詞・作曲家として、NHK「みんなのうた」「おかあさんといっしょ」やCMに楽曲を提供している。2018年7月より9作目の著作『外国人に「What?」と言わせない発音メソッド』(池田書店)が発売中。