試験のための英語学習が不要になる【どうなる?英語の未来⑧】

AI翻訳が急速に進化することにより、近い将来、語学学習自体が不要になる時代が来るかのように見えるかもしれない・・・が、そうではなく、「語学」の新しいフェーズが来たと話す英語学習アプリ「レシピ―」開発者の山口隼也さん。AIを介した会話ではなく、自身の言葉で伝えたいというニーズが高まることにより、「より使える英会話」のための学習になっていくと予想する山口さんに今後英語学習はどう変化していくか伺います。

「語学」の新しいフェーズの幕開け

AI翻訳の進化により、もはや「語学学習」自体が「不要」になる時代がすぐ目の前に到来したかのように見える。しかし、「語学」の新しいフェーズの幕開けがやって来た。私はそう思っている。これは「AI」と「人間」が協調し、それを「Web3 技術(※1)」が支える世界だ。

英会話において、AI翻訳で事足りる場面は多くなる。外国人観光客の接客や応対、海外旅行での英会話。特に非接触の方が効率よい場面では、AI翻訳で十分となる。これにより、今まで英語でコミュニケーションが取れなかった層に、AI翻訳を通して、間接的に英語に触れる機会が広がる

人は、元来ソーシャル(コミュニケーションがベース)な生き物であるため、AI翻訳経由の会話に触れることにより、「自分の言葉で伝えたい」「相手の言葉を直接理解したい」というニーズはより顕在化していくだろう。特に、より深いコミュニケーションを取りたい相手との会話でこの傾向は強くなり、英語学習の裾野は、今よりむしろ広がっていくはずだ。

ただ、この学習は従来の試験対策に偏ったものではなく、「より使える英会話」、そして、それを実現する「より効率的な英語学習」になる。「語学学習の上達」ほど、個々の能力や属性に大きく依存するものはない。特に、英語と語順が違う日本語を操る「日本人」にとって、英会話力を上達させるのは、一朝一夕に成し得るものではない。これは、上達の過程で障害となる要素が多岐にわたり、学習者個々で大きく異なってくるからだ。そこで重要となるのが、一人一人に合わせた学習のパーソナライズである。専属のパーソナルトレーナーが付くタイプのサービスがはやるのも、そうした背景があるからだ。

これまでは、先生やトレーナーの勘と経験に頼った指導が主流だったが、これからは「学習履歴データ」や「個人の属性」を分析することで、AIによるコーチングやカリキュラム作成が主流になっていく。弊社ポリグロッツで取り組んでいるのもこの部分である。

ただ、AIが苦手な部分もあり、そこは人間の出番となる。例えば、学習者のモチベーションの維持などだ。また、そもそも英会話自体が人とのコミュニケーションなので、AI相手の英会話ではなく、人間との英会話を通して「伝わる楽しさ」「伝える難しさ」「聞き取るモチベーション」を実感することが、学習効果を高める上では非常に重要であり、ここでも人間の役割は欠かせない。

英語の試験対策が不要な時代がやって来る

一方、「学習履歴データ」は、学習者のレベルや苦手なスキル、知らない単語など多くのことを語る。このデータが改ざん不可能で、証明された状態にあれば、もはや試験は不要になるだろう。小手先の試験対策でスコアを上げる必要もない。学習履歴データが、証明書の役割を担うからだ。これを実現するのが「ブロックチェーン」である。教育業界ではしばしば、経歴詐称やテストでの不正などが問題になるが、ブロックチェーン(※2)はそんな問題を一掃する。地道に努力し、結果を出した人が報われる世界。これが実現する。

また、学習のノウハウを守るため、コンテンツやカリキュラムのNFT(代替不可能なトークン)化も必要になる。無数の無料コンテンツもあふれているが、やはり「書籍」のような形に凝縮された情報と英知は群を抜いている。今、書籍がデジタル化され、さまざまな学習サービスに取り込まれている。PCやスマートフォンの画面に合わせて、一部を切り出したり、テキストデータだけが利用されたりしているが、こうすると、元の著作者の意図から離れた使い方になっていき、徐々に著作権の所在も曖昧になってしまう。これを解決するのが、コンテンツやカリキュラムのNFT化である。

「語学学習が不要な世界を創る」が、われわれポリグロッツが掲げるミッションだ。10年後、20年後に、このミッションが達成されているか?を妄想しながら、キーボードから手を離すことにする。

※1:Web3(ウェブスリー)とは、次世代のワールド・ワイド・ウェブとして提唱されている概念である。(出典:フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』、URL:https://ja.wikipedia.org/wiki/Web3)

※2:ブロックチェーン技術、情報通信ネットワーク上にある端末同士を直接接続して、取引記録を暗号技術を用いて分散的に処理・記録するデータベースの一種であり、「ビットコイン」等の仮想通貨に用いられている基盤技術である。出典:「ブロックチェーンの概要」(総務省)

山口隼也(やまぐち・じゅんや)
山口隼也(やまぐち・じゅんや)

株式会社ポリグロッツ代表取締役。大分県別府市出身。九州大学卒。卒業後、ITエンジニアとして活躍し、自身の英語学習経験を基に学習者視点での英語学習アプリ、レシピー(旧ポリグロッツ)を開発し、起業。「ITと人間」の両面から英語学習に取り組む。

シリーズ 英語の未来予想

ENGLISH JOURNAL 2023年1月号

※本記事はENGLISH JOURNAL2023年1月号に掲載した特集「英語の未来」を再編集したものです。

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