世界で動物保護活動が活発化する中、日本でも動物や環境に配慮した「エシカル」な行動を意識する人や企業が増えています。しかし、依然として日本は「アニマルウェルフェア(動物福祉)」後進国と言われているのも事実です。『ENGLISH JOURNAL』6月号は、世界の動物福祉のトレンドや在日外国人による動物に関する英語対談などを特集。その中から、本記事では動物福祉の啓もうに注力する公益財団法人動物環境・福祉協会Eva理事長の杉本 彩さんへのインタビューを一部抜粋してご紹介します。
アニマルウェルフェアを考える理由
まずは、 私たちの生活が動物の犠牲の上に成り立っているということを、一人一人が意識しないといけない と思います。私たちが普段口にする食品もそうですし、動物実験を踏んで開発された医薬品や生活雑貨もそうです。 そのことを理解した上で、動物の命を尊重することが「動物福祉」 だと考えています。
もちろん、いろいろな考えや思想を持つ人がいることも理解しています。ただ、 動物の恩恵を受けている以上、動物福祉は誰にとっても共通の問題 だと思うのです。動物の痛みや苦しみに配慮することはもちろんですが、動物福祉を考えることが自分たちの健康や安全につながっているということを、多くの人に気付いていただきたいと願っています。
例えば食事に関して言うと、動物福祉にのっとって飼育されている健康な動物のものだから、私たちが口にしても安全なのです。 動物の健康が自分たちの健康にもつながっているということをまずは理解し、背景を知って知識を得て、自分事として捉えてほしい と思います。
人間の弱さが引き起こす残虐な事件
2017年に猫の虐待動画をインターネット上に投稿した元税理士の男が、動物愛護法違反で有罪になりました。「動物虐待愛好家」と呼ばれるおかしな性質を持った人たちの間で動画を共有し、称賛され、自己承認欲求を満たすためにやったのだろうと思われます。こういった 動物虐待は、動画サイトやSNSで目にするだけでも相当数あり、実際にはその何倍も起こっているだろうと想像できます が、インターネットの普及によって表面化されただけで、動物虐待は昔から多くありました。ただ、昨今はそれが残虐化していると感じるのです。
いつの時代も変わらず、人間には残忍な一面があると思います。そういう部分が何かを引き金に、人を愚かな行動に駆り立てる 。心に余裕がなくなったとき、ストレスやコンプレックスなどの自分や社会への不満を、弱い動物や子供に向けるのです。何かを痛めつけることに快感を得るという性質を、元々持った人も中にはいるでしょう。しかし、 本当にごく普通の人でも、余裕がなくて追い詰められたりすると、加害者になり得る危うさがあるのです。そういう弱さを持っているということを、人間である限り、一人一人が自覚しないといけない ように思います。
これからの課題
今後、法改正で確実にやらなければいけないと思うことの一つに、「 速やかに適切に動物をレスキューできる仕組みづくり 」があります。現状、飼い主に付随するペットの「所有権」が、虐待されている動物を助けることへの大きなハードルになっています。いくらその動物が虐待されていても、他人が敷地内に入ったり、無理やり救出したりすることはできません。その権限を持つ警察や行政はしっかりと役割を果たしてくれず、 助けられる命がすぐそこにあるのに、私たちはただ見ていることしかできない。そういったことを解決するために大切になってくるのが「所有権の一時停止」です。これが次の法改正では最優先事項 だと考えています。
また、国の体制を変えていくことも必要です。 行政ができることには限界があるので、民間団体がそこを補える仕組みづくりをしないといけない と考えています。そう遠くない未来に実現できたらいいと思いますが、それがどれだけ大変かは今までの活動を通して痛感しています。しかし、それが実現したら日本の動物福祉にとっては大きな一歩になるので、全力で取り組んでいきたいと思っています。
知っておくべき アニマルウェルフェア
『ENGLISH JOUNRLA』6月号には、杉本 彩さんへのインタビューをフルで掲載。杉本さんの具体的な活動や日本の動物福祉の現状、動物保護活動を通して知る「本当の幸せ」などについてお話ししています。ぜひご覧ください。
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取材・文:古川(編集部)
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