英語を聞いたり話したりする力をまとめて 強化 できたらいいな、と思ったことはありませんか? そんな効率のいい勉強法、実は本当にあるんです。それが「リプロダクション」。『天駆せよ法勝寺』で第9回創元SF短編賞受賞の著者、バイリンガル小説家の八島游舷(やしまゆうげん)さんが実践しているその方法をわかりやすく丁寧に解説します!
リプロダクションとシャドーイングの関係とは?
今回は、 リプロダクション、リスニング、発声練習、シャドーイングの関係 についてより深く見ていきましょう。
リプロダクション(リプロ)は、日本では通訳者の訓練法としても使われることがあります。ただ英語学習に使うときは、通訳者の場合と大きく違うことがあります。通訳者は、単に聞いた内容(例えば英語)をリテンション( 音声の内容を一時的に記憶すること。詳しくは前回を参照 )するだけではなく、即座に別の言語(例えば日本語)に変換しなければいけません。しかし、英語学習の場合では逆で、 変換してはいけない のです。英語を英語のまま記憶に一時的に留めます。
このときの記憶は、一時的に使われる記憶です。このような記憶を 作業 記憶 (working memory)と呼びます。 作業 記憶は、単に情報をためるだけでなく、その情報の操作や、その情報を使って意思決定する過程に関わると考えられています。
自分の誕生日は何年たっても多くの人が覚えています。これは情報を長期的に覚えるための長期記憶です。 リプロダクションの練習で注目するのは、長期記憶ではなくこの 作業 記憶 の方です。つまり、リプロダクションの目的は、聞いた内容を暗記してずっと覚えることではなく、頭の中の内容をうまく言葉にして口に出す練習をすることです。
シャドーイングをしているときとリプロダクションをしているとき、頭の中では何が起きているのでしょうか。次の図をご覧ください。
本を黙読するとき、頭の中で声を出していませんか? それが「内言」です。 内言を頭の中でイメージすることで、 作業 記憶を使って、リテンションできる わけです。
リプロダクションの効果とは?
リプロダクションの効果にはどのようなものがあるでしょうか。
言語の技能としては、四技能、つまりリーディング、リスニング、ライティング、スピーキングがあります。 リプロダクションが直接 改善 できる技能は、スピーキングとリスニング だと考えられます。
一般的に、英会話するときに内言を意識しながら話すのはよく使われる方法です。他の人の発言を聞きながら、自分が発言する前に、コンサートのリハーサルのように内言として頭の中で文を組み立てます。
こうすることで、話す前に聞き逃しや文法の過ちに気付くことができ、より正確に話せます。英会話に慣れてくると、その都度、内言を意識しなくても話せるようになってきます。最終的に目指すのはこのレベルです。
リプロダクションをすることにより英語で考えられるようになれば、リーディングやライティングの技能向上にも間接的に役立つはずです。
また リプロダクションでは、リスニング段階とスピーキング段階が独立 しています。聞き取りに集中することでリスニング能力も 改善 されます。さらに発声しているときも自分自身で発声を確認できます(上図参照)。
一方、シャドーイングではリスニングとスピーキングを並行して行うため、どちらの 作業 もある意味、中途半端になります。とはいえ、シャドーイングも役立つ場面があります。
リスニング、発声練習、シャドーイングの関係とは?
リプロダクションを効果的に行う前に、いくつかできるようになっておいたほうがよいことがあります。特に リスニング、発声練習、シャドーイングの3つ です。下図はこの3つの関係を示しています。
1. リスニングと発声練習
リスニングと発声練習は、リプロダクションの過程をインプットとアウトプットに分解したもの と考えることもできます。シャドーイングをしたことがなければここから試してみましょう。この段階では、音声を聞き、次にそのスクリプト(台本)を読みながら発声します。
2. シャドーイングへの進み方
ただいつもスクリプトを読んでその内容を頭に入れていると、リスニングへの集中がおろそかになる 可能性 があります。リスニングだけでしっかり聞き取ることができなければ、音声コンテンツの難易度が難しすぎるかリスニング力が弱すぎるかのどちらかです。シャドーイングの段階に進めば、スクリプトは見ないようにしてください。
3. リプロダクションの前にシャドーイングを行う理由
私は、あくまでシャドーイングをリプロダクションの前の一時的な通過段階と考えています。別の言い方をすれば、リプロダクションはシャドーイングの上位互換です。シャドーイングは無意味ではありませんが、それだけでは練習効果に限界があります。ある程度シャドーイングができるようになれば、リプロダクションに進みましょう。
実践! リプロダクション
紹介した内容を踏まえて、今回も実践してみましょう。
まずリスニングと発声練習からです。自信のある人は、以下のスクリプトを読まずに次の項に進んでください。
ここでは、音声を再生して内容を聞き取ることに集中してください。
今回も、音声は『 指名が途切れない通訳ガイドの英語で日本紹介アイデアブック 』(島崎 秀定:著)に収録されているものの速度を調整して利用させていただいています。
次に、 スクリプトを声を出して読み上げて ください。
Japanese gardens
There are different types of gardens in Japan. The chisenkaiyu style gardens, or landscape gardens, are large enough to allow you to take a stroll around a pond. Most of them were created by shoguns or feudal lords. You can see these gardens all over the country, even in big cities like Tokyo.
In these gardens, you can feel the beauty of the changing seasons by admiring the seasonal flowers and leaves in autumn, but the ponds are actually man-made and the trees you see were planted by people. You could call it condensed nature .
At Zen temples, you will often find “dry landscape gardens.” In these gardens, the ocean and water are represented by the gravel being raked in a certain way, and no actual water is used. You may feel it looks artificial but, with a little imagination, you can get a real sense of nature . And please keep in mind that this type of garden is designed to be looked at and not to be walked on .
問題なくシャドーイングのできる人向けのトレーニング方法
シャドーイングが問題なくできる人は、スクリプトを見ずにシャドーイングを始めてください。シャドーイングがうまくできたら、リプロダクションをしてみましょう。
リプロダクションをやってみよう
前回 ご紹介した、リプロダクションの流れに沿ってやってみましょう。一回のまとまりの長さは5語程度が目安です。慣れれば10語以上できるようになりますが、焦る必要はありません。
いかがでしょうか。次回は、やる気、目標、習慣化などについて扱う予定です。
今回のまとめ
- 英語学習では、脳内で英語を日本語にしてはいけない。
- 情報の一時的な保存と操作に使う記憶を 作業 記憶 と呼ぶ。
- 黙読するときのような心の中の発話内容を 内言 と呼ぶ(特に音声的記憶)。
本記事へのご感想は こちら からお送りください。
八島游舷さんの本
- 作者:Final Anchors (早川書房)
- 作者:時は矢のように-Time : The Anthology of SOGEN SF Short Story Prize Winners- 時を歩く 書き下ろし時間SFアンソロジー
- 作者: 八島 游舷
- 発売日: 2019/12/06
- メディア: Kindle版
- 作者:
おすすめの本
この連載で使用の音声は、こちらの書籍に収録。音声の英文や和訳も掲載しています。
【トーキングマラソン】話したいなら、話すトレーニング。
語学一筋55年 アルクのキクタン英会話をベースに開発
- スマホ相手に恥ずかしさゼロの英会話
- 制限時間は6秒!瞬間発話力が鍛えられる!
- 英会話教室の【20倍】の発話量で学べる!
SERIES連載
思わず笑っちゃうような英会話フレーズを、気取らず、ぬるく楽しくお届けする連載。講師は藤代あゆみさん。国際唎酒師として日本酒の魅力を広めたり、日本の漫画の海外への翻訳出版に携わったり。シンガポールでの勤務経験もある国際派の藤代さんと学びましょう!
現役の高校英語教師で、書籍『子どもに聞かれて困らない 英文法のキソ』の著者、大竹保幹さんが、「英文法が苦手!」という方を、英語が楽しくてしょうがなくなるパラダイスに案内します。
英語学習を1000時間も続けるのは大変!でも工夫をすれば無理だと思っていたことも楽しみに変わります。そのための秘訣を、「1000時間ヒアリングマラソン」の主任コーチ、松岡昇さんに教えていただきます。