せっかく英語を学んでいるのだから、外国人と英語で交流してみたい!この連載「多文化コミュニケーションのすゝめ」では、多文化コンサルタントで東京大学大学院学術研究員(文化人類学)の三吉美加さんが、そのためのヒントを伝えます。第2回では、「外国人と知り合って仲良くなる方法」「知らない人に話し掛けるときの英語フレーズ」「多様な食習慣」などを紹介します。
シンプルな英語で積極的に話し掛けよう
外国人と交流する場では、普段以上に積極的に人に話し掛けてみましょう。そのような場が苦手な方は、会場を見渡して 話し掛けやすそうな人をまず探してみる のはどうでしょうか。楽しそうにしている人の中からフィーリングが合いそうな人を見つけて、「Hello.」と声を掛けてみましょう。
緊張しているなら、ゲーム感覚で「5人に声を掛ける」ことをミッションにして、非日常的な場を楽しもうくらいの軽い気持ちでやってみてください。きっと3人目くらいで慣れてきたなと自覚しますよ。世界各地から来た人との出会いはエキサイティングです。
英語でのコミュニケーションに大事なのは、度胸と愛嬌(あいきょう)、そして楽しむことです!文法はあまり気にせず、シンプルな単語で、 短い文をつなぐように話して みましょう。
Hello! I'm 〇〇. I'm new here. How about you?
こんにちは!私の名前は〇〇です。ここは初めてです。あなたは?
I'm 〇〇. I work at 〇〇 (Company). I do 〇〇.
私の名前は〇〇です。〇〇(会社)で働いています。〇〇をしています。
I have been doing 〇〇 for a long time. I like 〇〇. I'm very interested in 〇〇.
長いこと〇〇をしています。〇〇が好きです。〇〇にとても興味があります。
このように、できるだけ簡単な英文がいいです。
次のフレーズを使って、相手にもいろんなことを聞いてみてください。キャッチボールのイメージです。
How about you?
あなたはどうですか?
話し始めた後は、徐々に具体的な内容にしていきましょう。例えば、相手も自分もテニスが好きと分かったら、次のように言えますね。相手はいろいろ答えてくれるでしょう。中学で学んだ程度の英語で十分楽しく会話ができます。
Recently I enjoyed watching the Australian Open. I like Osaka Naomi because 〇〇. I think she is good at 〇〇.
この前は全豪オープンを見て楽しかったです。大坂なおみ(選手)が好きなんです、〇〇だから。彼女は〇〇が得意だと思います。
対等な立場で堂々と英語で会話しよう
相手がこちらの言ったことが分からないようだったら、もう一度ゆっくりと発音したり、スペリング(つづり)を言ってみてください。言い換えするのもいいですね。たとえ相手に理解してもらえなくても、ショックを受けないことです。「ただ伝わらなかった」のです。「自分の英語の発音が悪くて恥ずかしい」なんて思う必要はないですよ。
自分が話す英語に日本語のアクセントがあっても、それに誇りを持つくらいの気持ちで話してください。あなたはあなたの英語を話すのです。英語圏出身でないのなら、例えばイギリス人やアメリカ人のように話すことの方が不自然です。
相手の言ったことが分からなければ、「分かりません」と堂々と言いましょう。目の前の人とあなたは対等なのです。
出会いを楽しみ、知的好奇心を広げよう
コミュニケーションの場は、英語力が試される場ではありません。同じ場に居合わせた人同士がその偶然のような必然の出会いを祝福する場なのだ!くらいに思うのも手です。
何よりも、あなたが楽しんでいることが一番重要なのです。これが、英会話を上達させる最大のコツではないかと思うほどのポイントです!
多文化交流の場にやって来るのはフレンドリーな人たちばかりです。何も恐れることはありません。
出会いを通して、多様な文化、習慣、考え方に親しんでいく中で、自分の関心事がさらに広がっていくでしょう。多様な人々との交流は知的な好奇心をかき立ててくれます。
例えば、ニュージーランドの人と出会ったら、ニュージーランドが気になり出しますよね。世界地図で場所をチェックしたり、インターネットや図書館で調べてみたりするでしょう。多文化な交流を通して、物事に関する興味がどんどん広がっていきます。
気の合いそうな人たちと食事に出掛けよう
知り合ったばかりの人と一緒に食事に出掛けると、お互いの距離がぐんと縮まります。食べ物があると話題も増えますし、共に食べるという行為はその場に会した人同士に一体感を与えてくれ、親近感をもたらしてくれます。まずは3~5人くらいで出掛けてみるのはどうしょうか。
珍しい料理やパフォーマンスがあるレストランだと、さらに楽しい経験になるでしょう。例えば、サーカスやマジックを披露する店、ぺットやロボットがいる店、ダンスショーなどがある店などは面白そうです。「すごい!」「うわー!」と声を上げすにはいられない経験を共有すると、もう会話せずにはいられません。
大きなしゃもじで料理が出てくる炉端焼きや、電車が寿司を運んでくる回転ずしも外国人の方に喜ばれます。
私が海外の方をよくお連れするのは、シリア料理、トルコ料理、パキスタン料理、ギリシャ料理、イタリア料理、イスラエル料理、ウイグル料理などの店です。理由は、これらの料理はベジタリアンやユダヤ教徒、イスラム教徒の方にも対応しやすいからです。
知っておきたい食習慣の多様性
食事をする場所を決めるときは、食習慣が多様であることを覚えておきましょう。宗教によって特定のものが食べられないというだけでなく、食物アレルギーの有無や、何らかの理由で特定のものを食べないと決めているなど、人によってさまざまです。
ベジタリアンとヴィーガン
ベジタリアンと言っても、「肉は全て食べない」「鶏肉はOK」「卵製品はOK」「魚も含めて食べない」などいろいろなタイプがあります。
最も厳格なのはヴィーガンです。彼らは全ての肉、卵、乳製品、魚を一切食べません。動物由来のものを食べないばかりか、革製品も身に着けません(靴、かばん、財布、ベルトなど)。
ヴィーガンである理由は人それぞれです。私の経験上では、ニューヨークやロサンゼルスなど、アメリカの都市部から来る人にヴィーガンの人が多いと感じます。
最近は東京にもヴィーガンに対応した食品を売る店やレストランがありますが、そのほとんどが都心の一部に限られます。
イスラム教徒とハラル
イスラム教徒(ムスリム)は、イスラム法の合法を意味する「ハラル(ハラール)」の食べ物を口にします。彼らが豚肉と酒を取らないことは、ご存じの方も多いでしょう。忘れがちなのは、ポークエキスの入った菓子パンやスナック菓子、ゼリー、多くの冷凍食品、料理酒の入った和食なども食べられないということです。人によっても解釈の違いがありますが、覚えておきたいことです。
ユダヤ教徒とコーシャ
ユダヤ教には、イスラム教よりさらに細かな食品規定があります。
反すうしない動物の肉は食べないので、豚、ウサギなどを食べません。また、うろこのない水中生物を食べないので、甲殻類(エビ、カニなど)、貝類、ウナギ、イカ、タコ、クジラなどを食べません。日本食でよく使われる食材ですので、注意しましょう。
食べ合わせについても、肉と乳製品を同時に食べてはいけないという規定があります。血を含むものも食べません。ですから、チーズハンバーグやミルクシチュー、血の滴るステーキは駄目です。
ユダヤ教徒の食品規定に沿った食品は「コーシャ(コーシャー)(kosher)」 と言います。日本国内にはコーシャに配慮したレストランはとても少ないです。ユダヤ教徒の方と出会ったら、ぜひインターネットや本で詳細を調べてみてください。
イスラム教徒やユダヤ教徒の方でも、規範についての理解は各人で異なります。食事を共にするときは、まず本人に尋ねてみるのが一番です。
子どものように世界の不思議を楽しもう
もしかしたら、「大変だな」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。でもそう大変ではありませんよ。「大変だ!」ではなく「違う!」「へえー、面白い!」と声を上げませんか。「違い」を面白がることは、多文化コミュニケーションでかなり大切なポイントになります!
この「違う!」の先には、世界の面白さが詰まっています。食習慣だけを見ても、たくさんのハテナが湧き起こってきますよね。「ヴィーガンって何?」「ヒンズー教徒は牛肉を食べない?」「なぜアメリカから来る人にユダヤ系が多いの?」「ハラルラーメンって?」「鎌倉に外国人が集まる理由は?」など。
不思議に思ったら、尋ねたり調べたりしてみましょう。さらに興味が広がって、「またあの人たちに聞いてみよう!」とつながっていけばいいですね。もちろん、インターネットや本でも調べられますが、じかに当事者から聞くと、また違った角度からの回答があるかもしれません。なんだか自分の世界が広がっていくような感じがしませんか。
多文化コミュニケーションは、自分の先入観や、当たり前だから考えもしなかったことを引き出してくれます。引き出されたものをちょっと横に置き、目の前に提示されたなじみのないものを面白がってみてください。そうしたことの繰り返しの中から、なんだか前とは違う自分が引き出されていくような、そんな不思議な体験をどんどんしてみましょう。さあ、物語の始まり、始まりー!
編集:GOTCHA!編集部