新千円札の顔「北里柴三郎」を英語で紹介できますか?

新紙幣の「顔」となった3人の偉人について、早稲田大学名誉教授のジェームス・M・バーダマンさんに教えていただくレクチャーの最終回。今回は新千円札の肖像になった「北里柴三郎」です。

Lecture:英語で読み解く日本の近代史 第2回

この記事で取り上げるのは、千円札の新たな顔である、北里柴三郎。()(しょう)(ふう)をはじめとするさまざまな難病の予防・治療法を開発した人物です。偉大な細菌学者の人生を英語でひもといてみましょう。

1.オランダ人医師と出会い、医学の道を志す

Kitasato initiated his studies of medicine in his home prefecture of Kumamoto. Luckily, when he enrolled in the Kumamoto Medical School that had just been founded, the school had just invited the Dutch physician C.G. Mansvelt to serve as the primary advisor for medical education.

北里が医学を学び始めたのは、故郷の熊本県でのことでした。幸いなことに、創設されたばかりの熊本医学校に彼が入学したとき、同校は医学教育における第一の指導者として、オランダ人医師のC・G・マンスフェルトに勤務してもらうよう招聘(しょうへい)したところでした。

C・G・マンスフェルト(1832-1912)は日本国政府の長崎府医学校の設立に大きく貢献し、日本国内で最も重要な医学専門家の一人として知られていました。彼から医学を学んだ北里は、熊本でのマンスフェルトの任期が終わりに近づいた頃、北里から東京大学(当時の東京医学校)で学び、その後はヨーロッパで勉強を続けるよう勧められました。

2.世界初、破傷風菌の純粋培養に成功

Under Koch’s auspices, together with Emil von Behring, he studied tetanus and diphtheria, two serious bacterial infections. When Kitasato began his research, it was believed impossible to isolate the tetanus bacteria. But Kitasato thought otherwise, and in 1889, he succeeded in obtaining the world’s first pure culture of the tetanus bacteria.

コッホの支援の下、エミール・フォン・ベーリング(*1)と共に、北里は二つの深刻な細菌感染症、破傷風(*2)とジフテリア(*3)を研究しました。北里が研究に着手した頃は、破傷風菌の分離は不可能だと思われていました。しかし北里はそうではないと考え、1889年、世界で初めて破傷風菌の純粋培養を採取することに成功したのです。

  • (*1) エミール・フォン・ベーリング:ドイツの細菌学者。
  • (*2) 破傷風:傷口から侵入した破傷風菌によって起こる感染症。
  • (*3) ジフテリア:ジフテリア菌によって起こる感染症。

1883年に医学博士号を取得した北里は、新設された内務省衛生局の役職を引き受けた後、ベルリンの細菌学者ロベルト・コッホの研究所に派遣されました。コッホは、当時の同分野において第一線の研究者であり、近代細菌学の基礎となる技術を開発・改良し、細菌学の開祖と言われる人物です。そこで北里は多くのことをコッホから学び、敬愛するほどの師弟関係を築きました。

3. 帰国後に「私立伝染病研究所」を設立

When he returned to Japan in 1892, Kitasato was unable to find a satisfactory laboratory where he could continue his research. At this point, the businessman Morimura Ichizaemon and the founder of Keio University, Fukuzawa Yukichi, offered assistance. With their support, Kitasato established the Institute for Infectious Diseases and became its first director.

1892年に日本に帰国した北里は、自身の研究を続けるのに適した研究所を見つけられませんでした。そんなとき、実業家の森村市左衛門と、慶應義塾大学創設者の福沢諭吉が支援の手を差し伸べました。彼らの後援を受け、北里は私立伝染病研究所を設立し、初代所長に就任しました。

ドイツのベルリンで研究を続けていた北里は、1892年に日本に帰国します。研究所を探していた北里は、森村財閥の創設者である森村市左衛門と、ベストセラー『学問のすゝめ』で有名な明治時代の思想家、教育者である福沢諭吉と出会います。その支援によって、後に政府の衛生局の一部となる「私立伝染病研究所」を立ち上げることができました。

4.多くの命を奪った世界的な難病、ペスト菌を特定

Two years later, the Japanese government sent him to Hong Kong during an epidemic of bubonic plague. He identified the bacillus Pasteurella pestis that causes the plague. The French bacteriologist Alexandre Yersin independently discovered the plague bacillus in the same place and at the same time, and in the West, Yersin is credited as the discoverer.

2年後、日本政府は、(せん)ペスト(*4)が蔓延(まんえん)するさなかの香港に北里を派遣しました。彼は、その伝染病の原因となる病原菌パスツレラ・ペスティス(*5)を特定しました。その同じ場所(香港)、同じ時期に、フランスの細菌学者アレクサンドル・イェルサンも独自にこの病原菌を発見しており、欧米では、発見者はイェルサンだとされています。

  • (*4) 腺ペスト:ペスト菌による感染症のうち、リンパ節炎、敗血症などを引き起こすもの。
  • (*5) パスツレラ・ペスティス:ペスト菌のかつての学名。

この私立伝染病研究所には、私たちのよく知るもう一人の偉大な医学者も研究助手として働いていました。梅毒の原因となる病原体を発見し、黄熱病(*6)のワクチン研究に取り組んだ野口英世が、自らの研究を続けるべくアメリカへ渡る前に2年ほど、この研究所に所属していたのです。

  • (*6) 黄熱病:中南米やアフリカ西部で見られるウイルス性出血熱。

5.現代へ受け継がれた北里の偉大な功績

When Kitasato died, in 1931, he was laid to rest in the shrine that he had built for his respected teacher Robert Koch. On the anniversaries of their respective deaths, admirers of the men come to pay their respects and remember the example they set of the close bond that can be achieved between a teacher and a student.

1931年に北里が逝去すると、彼の敬愛する師ロベルト・コッホのために建立した(ほこら)に、彼自身も祭られました。両者の命日には彼らを尊敬する人々が訪れては参拝し、師弟間で結ばれた一連の強い絆の例に思いをはせています。

北里柴三郎は医師として細菌学者として、世界中のさまざまな疾病における治療法の研究と開発に大きく寄与しました。北里研究所は現在も、ウイルス学、血清学、細菌学の分野で多大なる貢献を果たしています。同研究所の創設50周年を記念して1962年に創設された北里大学は薬学・医学・看護の学部を持つ、生命科学分野の研究で有数の大学となっています。

日本の近代史にまつわる語句を要チェック!

「北里柴三郎」の人生をひもとく英語レクチャーはいかがでしたか?ここに登場する以外にも、日本の近代史にまつわる表現を下にまとめました。知らない語句はチェックしておいて、しっかり復習するようにしましょう!

  • bacteriologist:細菌学者
  • medicine:医学
  • physician:医師
  • laboratory:研究所、試験所
  • microscope:顕微鏡
  • isolate:~を分離する
  • agent:病原体
  • infection:感染症、伝染病
  • co-author:~を共同執筆する
  • immunity:免疫、抗体
  • injection:注射 
  • serum:血清
  • microorganism:微生物
  • develop a symptom:発症する
  • epidemic:(病気などの)蔓延、流行
  • life science:生命科学
  • pharmacy:薬学
  • nursing:看護

皆さんもぜひ、これらの語句を使って日本史について人と話したり、説明したりできるようになりましょう!

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バーダマンさんの記事

ジェームス・M・バーダマン(James M. Vardaman)
ジェームス・M・バーダマン(James M. Vardaman)

早稲田大学名誉教授。1947 年アメリカ、テネシー州生まれ。プリンストン神学校教育専攻、修士。ハワイ大学大学院アジア研究専攻、修士。専門はアメリカ文化史、特にアメリカ南部の文化、アメリカ黒人の文化。著書に『アメリカの小学生が学ぶ歴史教科書』(ジャパンブック)、『アメリカ黒人史―奴隷制からBLM まで』(ちくま新書)、『ミシシッピ=アメリカを生んだ大河』(講談社選書メチエ)、『毎日の英単語』(朝日新聞出版)、『3つの基本ルール+αで英語の冠詞はここまで簡単になる』(アルクライブラリー)ほか多数。
VARDAMAN’S STUDY
バーダマンの英語随筆

  • トップ画像の写真:山本高裕、構成・文:須藤瑠美(ENGLISH JOURNAL編集部)
  • 本記事は『ENGLISH JOURNAL』2021年3月号に掲載された記事を再編集したものです。
  • 作成:2021年2月15日、更新:2024年12月5日

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