学校で習った英文法と、実際に触れた英語の用法の違いに気付き、どちらが正しいのか混乱・・・という経験はありませんか?連載「ラクする英文法」では、そんな疑問を解決してラクに英語を使えるようになることを目指します。今回取り上げるのは「比較級」です。
目次
than I doよりthan meとする方がラク?!
唐突ですが、次の英文を見てください。
Nobody knows the (political) system better than me.
(政治)システムを私よりよく知っている者はいない。
なかなか言えるセリフではありませんが、この発言の主が前アメリカ大統領のドナルド・トランプ氏だと聞けば、なるほどと思うかもしれません。
ところで、トランプ氏の過去の発言には次のようなものもあります。
Nobody has more respect for women than I do.
私ほど女性に敬意を払っている者はいない。
これらの2つの文をよく見てください。最初の文では「than me」ですが、2番目の文では「than I do」 となっています。
than I doとするのが文法的には正しいのですが、述語動詞まで意識してthan I doとするのはちょっと面倒です。thanのあとに人称代名詞の目的格を続けてthan meとすればラクですよね。これで問題ないのです。
でも、than I doの省略ならthan Iとすべきなのでは?それに、いつでもthan meでいいの?
今回は、比較の文の成り立ちを再確認することで、このような疑問を解決することにしましょう。
比較の文の成り立ち
まず、比較の文の成り立ちを簡単な文で確認しましょう。「彼は私よりも年上だ」と言うときの完全な形の英文は次のようになります。
He is older than I am.
この文は、「彼(he)」と「私(I)」を比べているのではなく、「彼の年齢は~(He is ~)」と「私の年齢は~(I am ~)」という、2つの文が表す内容を比べています。
述語動詞がbe動詞ではなく一般動詞の場合は次のようになります。
She knows politics better than I do.
彼女は私よりも政治をよく知っている。
この文では、「彼女が政治を知っている程度は~(She knows politics ~)」と「私が政治を知っている程度は~(I know politics ~)」を比べています。I doとなっているのは、know politicsが繰り返されるのを避けるためです(このdoは「代動詞」と呼ばれます)。
thanのあとがI amやI doになることがまだピンとこない方は、次の文で確認してください。
He looks older than he really is.
彼は実際の年齢よりも年上に見える。
この文は、「彼の見た目の年齢は~(He looks ~)」と「彼の実際の年齢は~(he really is ~)」を比べています。このように、比較の文は「主語+動詞」を持つ2つの文を組み合わせることで成り立っているのです。
than I am の省略形は than me
He looks older than he really is. の場合は、he really is でないと何と比べているのか分からなくなってしまいますが、He is older than I am. の場合は、am を省略して He is older than I. としても意味は伝わります。
でも、実際にはthan I ではなく than me とするのが普通です。これは、文が主格(主語の形、ここではI)で終わるのを避けたいという意識と、thanを前置詞と捉えて、その目的語として目的格(me)を続けたいという意識が働くからです。
文法に従えば、He is older than I (am). となって省略形の than I は正しいのですが、その「正しさ」が堅苦しさにつながり、敬遠されるようになったのです。
これは as を使う比較の文でも同じです。
He is as old as me .
彼は私と同じくらいの年齢だ。
than me とできないこともある
than meとできるのは、伝える意味に誤解が生じない場合です。次の文はどうでしょう。
You love her more than I do.
than I doはthan I love herということです。この文で比べているのは「あなたが彼女を愛している程度」と「私が彼女を愛している程度」です。比較級moreを使うことで、「私が彼女のことを愛しているよりも、あなたは彼女のことを愛している」という意味になっています。
これを、
You love her more than me.
とすると、「あなたは私よりも彼女のことを愛している」という意味になってしまいます。「あなたが彼女を愛している程度」と「あなたが私を愛している程度」を比べることになるからです。この場合は、You love her more than you love me. の you love が省略されていると解釈されるわけです。
誤解が生じなければ口語では than me を使う
ここで、トランプ大統領の発言を振り返ってみましょう。実は、冒頭で見た発言には続きがありました。
Nobody knows the (political) system better than me, which is why I alone can fix it.
「(政治)システムを私よりよく知っている者はいない」と言った後に、「だからそれを正すことができるのは私だけなのだ」と言い切っています。さすがです・・・。
比べる相手を示すとき、人称代名詞だけで誤解が生じない場合は、than me のように目的格を使うことができます。ただし、than I do のような示し方が文法的には正しいため、話すとき以外(書くとき)は than I do のようにすることが多いようです。
比較の文で何かを表現するときは、何と何を比べているのかが明確になっている必要があります。誤解が生じない場合は省略される語句もあります。「簡潔に分かりやすく」がコミュニケーションの基本なのです。
最後に、トランプ大統領の以前の発言をもう一つ引用しておきましょう。
Nobody knows more about taxes than me, maybe in the history of the world.
税金を私より詳しく知っている者はいない、おそらく人類史上、誰も。
鈴木希明さんの英文法の本
正しいのはどちら?My hobby is to take pictures. / My hobby is taking pictures.
あなたが「常識」だと思っている英文法の知識の中には、間違っているものや、今では通用しない古いものがあるかもしれません。NHK出版新書『学校では教えてくれない!英文法の新常識』(2019年、NHK出版)で、そのような知識を「新常識」へアップデートしましょう!
●作成:2019年7月20日、更新2024年8月21日
【トーキングマラソン】話したいなら、話すトレーニング。
語学一筋55年 アルクのキクタン英会話をベースに開発
- スマホ相手に恥ずかしさゼロの英会話
- 制限時間は6秒!瞬間発話力が鍛えられる!
- 英会話教室の【20倍】の発話量で学べる!