英語力ゼロ、英語欲もゼロ、だった人生が、一変。「英語に苦しむ人をこの世から一人でも多く減らしたい」をモットーに活躍中の超一流予備校講師斉藤健一さん。独学中に経験した笑える失敗談と、そこから得た発見や英語の視点について共有いただく連載「七転び八起き英語」の第2回は、スペリングから簡単にわかる発音の仕方と聞き分け方です。
【o】を無意識に正しく「ア」と発音しているときもある
こんにちは!英語講師の斉藤健一です。
皆さん、スペリングに引きずられて、間違った発音で単語を覚えてしまったことはありませんか?
例えば、noneを「ノーン」と発音していたり(正しくは「ナン」)、ovenを「オーブン」と発音してしまったり(正しくは「アブン」)。
もし、そのような経験があったら、 原因 はやはり母語の介入だと思います。noneを「ノーン」と読んでしまうのはローマ字読みをしているからで、ovenを「オーブン」と読んでしまうのはカタカナ英語の弊害でしょう。
しかし、スペリングと発音の関係を意識している人は、これが間違いだということに気付きやすいはずです。というのも、 スペリングと発音の関係には共通点があることが多い からです。
noneもovenも、どちらもoを「オー」と発音してしまったことからくる間違いですよね。皆さん、 oを「ア」(発音記号でいうと[?])と発音するときがあるんだ、と意識したことはありますか ?
実はこの発音は、そんなに「ものすごく例外的」というわけではありません。oを「ア」と発音するのは誰にでもはなじみがあるはずです。
例えば、moneyやloveという単語があります。moneyを「モーネイ」、loveを「ローブ」と発音する人はあまりいないはずで、「マネー」「ラブ」と発音する、つまり ほとんどの人がoを「ア」と発音するときがあり 、 たとえ無自覚的にせよ知っている のです。そしてmoneyとnone、loveとovenはどこか似ていませんか。
実は oの後ろにnやv、そしてmが続くとき、そのoは「ア」と発音される 傾向 がある のです。
このように「発音とスペリング」は実はつながっているので、単語を覚えるときに少しスペリングを意識して発音練習をする癖を付けるだけで、ルールとして知らなくても「 傾向 」がなんとなくつかめるようになっていきます。
前回 は 「母音+r」の 発音の話をさせていただきましたが、今回は、 「w+母音+r 」について話したいと思います。
古いアパートにイスラエルから留学生が泊まりに来た
大学生の頃の話です。大学入試に「リスニング試験」がなく、音声面の勉強をまったくせずに大学に入った僕の「スピーキング」最初の課題は「発音」でした。
とにかく通じないのです。文 単位 はもちろん、waterのような簡単な単語すらもわかってもらえない。大学入試では英語は誰にも負けまいと努力してきただけに、ショックでした。
克服するには英語を使う機会をひたすら増やすしかない、と思っていた当時の僕は、留学生と積極的に英語でコミュニケーションを取ったり、英語のネイティブの先生に質問に行ったりと、話す機会(アウトプット)を増やすことにばかり意識が向いていました。
そして大学1年生の夏休みのことです。入学時に、大学で「ホームステイ先募集」の張り紙を見て応募していたのですが、驚くことに自分が選抜され、約1カ月、当時一人暮らしをしていた家賃月2万8千円のボロアパートに留学生が泊まりに来ることになったのです。
その留学生はイスラエルから来た学生で、「ガイ」という名前でした。その名前のとおり見た目が筋肉質のタフガイで、出会った時はかなり委縮してしまったのを今でも覚えています。
ホームステイ初日、自分のボロアパートに連れて来られたガイと、部屋で二人きりで自己紹介をし合いました。そこで彼は名前を名乗った後、何やら一生懸命に説明しようとしているのですが、何を言っているのかまったくわかりません。「ウォー」という単語が何回か聞こえてきて、「キーワードはウォーだな」と思ったのですが、ウォーが何かわかりません。
しかし、ついに「あっ!」とひらめいたのです。実はアパートが古過ぎて、ムカデみたいな虫が部屋の中に出没したことがあったのですが、その虫が出たらなんて言おう・・・と思ってあらかじめ単語を調べていたのです。その「虫」を表す単語はwormでした。
皆さん、wormの発音はわかりますか。 wormは「ウォーム」ではなく、「ウァーム」と発音 します。そのメカニズムは後ほど説明させていただきます。しかし、とにかく僕は当時wormを「ウォーム」と思っていたのです。
で、ガイが「ウォー」と言っていたのを「ウォームのことだ!あ、この部屋虫が出るのか、と聞いているんだ!」と思い、思わず、「Yes! Yes! ウォーム、Yes!」と言っていました。
ガイはReally?と驚いていましたが、その表情は困惑というより驚嘆といいますか、好奇心の目で満ちていました。You?と聞いてきたので、「本当におまえの部屋には虫が出るのか?」という意味だと解釈した僕は、Yes! I’m sorry! My room is old!と返答。
そこで彼は意思疎通ができていないと思ったのでしょう、辞書を引いてある単語を指さして「これのことを言っているんだよ」と見せてきました。
その単語は、war(戦争)でした。僕もその単語は知っていたので、なんでいきなり戦争という単語が出てきたのか不思議に思い、「ウァー?」と聞くと、「ウォー」と訂正され、そこで初めて、「あ、この単語はウォーと発音するんだ!」と知ったのです。
僕は「なんだ、虫のことを話しているかと思ってたー」と伝えようと、辞書でwormを調べてそこを指さしました。するとガイは、「ウァーム?」と発音したので、「え!こっちがウァー!?」とびっくりしたのでした。
その時彼は「戦争を経験したことがあるか」と聞いていたようです。彼は戦場から帰ってきたばかりで(イスラエルには徴兵制があります)、僕がYes!と言っていたので、同じ境遇なのかと驚いたのかもしれません。
なお、「虫が出没する部屋だ」となんとか伝え、その時は「気にするな」と彼は言いましたが、次の日から別のホームステイ先へ移りました。おそらく僕の英語力があまりに低く、共に生活するのは不可能だと思われたのだと思います。いや、ひょっとすると虫が出ると知ったからでしょうか。真実は誰にもわかりません(笑)。
wが「母音+r」の前に付いたら、口を一段階小さく
この経験から、僕は「発音とスペリングの関係」を徹底的に調べることにしました。
よく思い出してみると、 work は「ウォーク」じゃなく「ウァーク」だ、と中学生の時に習い、「英語のスペリングは当てにならない」と悟った時から、スペリングはどうでもいいと感じるようになっていたのだと思います。
しかし、実はこの work も、今回のwarやwormも共通する法則があります。それは、 wと 「母音+r」の組み合わせ だということです。
前回 の記事で、 「母音+r」の法則性 のお話をし、その中で以下のルールを提示しました。
・ar=口大で「アー」
・ir/ur/er=口小で「アー」
これに、or=口中「オー」も付け加えさせてください。
orは「オー」ですが、口の大きさはarほど大きく開けず、ir/ur/erほど小さくもないので、「中くらい」という意味で、「口中」と表現させていただきます。これで母音(a、i、u、e、o)にrがくっ付いた時の発音が出そろいました。
口の大きさの順に並べると、次のようになります。
・ar= 口大「アー」
・or=口中「オー」
・ir/ur/er=口小「アー」
さぁ、ここからがポイントです。実は、wがこの 「母音+r」の前に付くと、口の大きさが一段階小さくなるのです。
つまり、「w+ar」= 口大ではなく口中、つまり「オー」の発音へ「w+or」= 口中ではなく口小、つまり(小さな口で発する)「アー」の発音へと変化します。
これは、 wが本来uが二つ重なってできた文字であり、u2つ分口をすぼめるので唇が前に突き出る形で発音され、その後の母音に 影響 が出るため です。
よって、warは「ウァー」ではなく「ウォー」、work やwormは「ウォー」ではなく「ウァー」となるのです。これは動画で口の動きを見ていただいた方が格段にわかりやすく納得がいくものと思いますので、ぜひ、こちらのYouTubeでもご確認ください!
※動画が見られない人は YouTube のページでご覧ください。このように、発音とスペルにはある程度法則性があります。その法則をすべて覚えよう、と言っているのではありません。
「スペルと発音はある程度関係している」という意識を持って普段から単語を覚えていくことを提案させてもらいたいと思っています。
僕のように、一度単語を覚えて、後で発音を覚え直す、という二度手間は本当に時間の無駄です。英単語を覚える時は、最初から、スペルをしっかり意識しながら正しい発音で覚えていくようにしましょう。その意識さえあれば、「実は法則があるのだ!」と後から言われてわざわざ目から鱗を落とさなくても、自然とそのルールが内在化されていくはずですから。
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