日本にいながらにして使える英語を身に付けようとすると直面するさまざまな悩み。この連載「通訳者の英語学習解決室」では、短大卒業時に英検4級、TOEIC 280点ながら、そこから3年半で通訳者デビューした「国産同時通訳者」、小熊弥生さんが、今日からできる解決法を教えます。今回の相談は、「会話のときに英語で素早く発言できるようになりたい」です。
目次
相談:英会話のときにとっさに発言できない
今回のご相談は、「よく考えれば英語で言えるけど、即座に反応して話すことができない」です。
話し相手は待ってはくれない
「時間をかければなんとか英語で言えるけど、とっさには言えない」は、 英会話では致命的 です。
ですから、この問題を認識していることはとても素晴らしいです!
認識できていれば解決を目指せますし、これを解決すれば、あなたはグローバル人材として活躍できる人に大変身できます。
なぜこの問題が致命的かというと、英語を話すときに、そして同時通訳するときもそうですが、人は待ってくれないからです。
こんなふうに考えましょう。
あなたがサッカー選手だったとして、試合中にあなたのところに来たボールを、「正しく」蹴ることに集中し過ぎて、とっさに蹴られなかったとすると、どうなりますか?
そのボールは、相手チームの選手に奪われてしまうのではないでしょうか?
それがまさに、英会話の場面で起こっているのです。
ボールが来るというのは、What do you think?と意見を求められることに相当します。
そのときに、「えっと、まず主語は、述語は、何にしよう?過去形じゃ駄目で、現在形だっけ?」などと考えていたら、会話のボールを敵(その場にいる他の人)に取られてしまいます。
英会話には、「キャッチボールのように早く話す」という暗黙のルール があります。英会話で正しさを求めていると、そのルールに対応できません。
ですから、今から英会話に対するあなたのルールを頭の中で変えていきましょう。
「英語を間違えると駄目だと思われる」という心配は無用
じっくり考えずにとにかく英語を話しましょうと言われると、「でも、ネイティブスピーカーの先生には、間違えるとけげんな顔をされるし」と 心配 になるかもしれません。
しかし、 以前の記事 でもお伝えしましたが、私は通訳者として1万回、日本と英語のボールの橋渡しをしてきました。
そのうち、半数の5000件以上で、スピーカー(話し手)の英語は、 そもそも あまり正しいとは言えない、いわゆる「ブロークンな英語」 でした。
「え、本当?」と思われるかもしれません。
しかし、グローバルな舞台では、ネイティブだけが英語を話しているわけではないことを思い出しましょう。もっと言うと、アメリカ国内でも、英語のネイティブでない人の数が増え続けているのです。
しかも、ネイティブでさえ、There’s a lot of people.などと、テストであれば不正解になるような文法で話すことも多々あるのです。
ですから、「正しさ」は本当に手放しましょう。
大切なのは、意図が伝わること
では、何に注意して話せばいいのでしょうか?
答えは、 意図が伝わるquick response (素早い応答) です!
意図が伝わるというのは、自分の意図を相手に分かってもらうということです。
There are a lot of people.でも、There’s a lot people.でも、どちらでも、たくさん人がいるということは分かりますよね?
a lot of peopleがキーフレーズですから、There’sと言っても意図は十分伝わります。
キーフレーズを素早く言うことの方が、There isと言うのかThere areと言うのかを考えるよりも、重要なのです。
英会話では「見え」を捨てよ
英会話では意図が伝わればよく、しかも相手は長く待ってはくれないので、quick response が重要というお話をしました。
では、quick response を妨げる要因は何でしょうか?
私はこの概念を同時通訳の訓練をしているときに学びました。そのときのエピソードにヒントがあります。
私に限らず、同時通訳の訓練を受け始めて間もないころには、こう思いがちです。
「もっとかっこいい表現があるはず!」
この見えによって、通訳に時間をかけてしまうことがあるのです。
しかし、言葉は川の流れのようなものです。通訳者の見えは、その流れを断ち切ってしまいます。
通訳を聞いている人たちは、あなたの表現力を知りたいのではなく、話し手のメッセージが聞きたいのです。
見えを張って良い表現を探すことは、通訳の準備時にはやってもいいことですが、本番では絶対にしてはならないのです。
これは、英会話でも同じではないでしょうか?
あなたは、表現力の自慢のために英会話をしているのでしょうか?
そんなことはありませんよね。メッセージを伝えたくて、そして相手のメッセージも知りたくて、会話するのだと思います。
見えはquick response が重要視される英会話では妨げ になりますので、注意しましょう。
2ステップ訓練法で素早い英会話力が身に付く
quick response は、たった2つのステップでトレーニングできます。
この2ステップ訓練法は、私が同時通訳中に頭の中で英作文をしているときの 手順 と同じです。
- シンプルな英語化
とはいえ、言うは易く行うは難しですので、もう少し 具体的な 方法を紹介していきましょう。
シンプルな日本語にしてから、シンプルな英語にする
まずは、言いたい日本語のメッセージをシンプル化します。シンプル化のコツは、頭の中で 「要は」と言ってから、日本語でメッセージをまとめる ことです。
例えば、
「今日はお花を頂いたので、私はうれしい気持ちでいっぱいです。だから、あなたにも幸せのお裾分けをしたいと思って、私が作ったケーキを持ってきました」
と、こんなことを言いたいとしますね。
「要は」に続けることで、
今日は花をもらった。と、ここまでシンプル化できます。私はうれしい。
私は幸せを共有したい。
そのためにあなたに手作りケーキを持ってきた。
そして、その シンプルな日本語を、シンプルな英語にする のです。
I received flowers today.これなら簡単でしょう?So I am happy.
英語がどんどん口を突いて出てくるようにするためには、この2ステップを高速でできるように訓練するのです。
慣れてくると、日本語をシンプル化するプロセスを経ないで話せるようになってきます。そうなればもう英語の達人です。
自分が知っている表現を駆使する
このトレーニングには、2点だけ注意点があります。
1点目は、自分が知っている単語で取りあえず発言するのを大原則にすることです。
同時通訳中に辞書を引くのは結構大変です。相当余裕がないとできません。
英会話のときにも、まさか国際会議で辞書を引きながら質疑応答はできませんし、道案内でも、辞書を引く時間があったら、相手はインターネットの地図を使って目的地に行けてしまいますよね。
ですから、大切なのは、完全にぴったりの表現や正しい表現でなくていいので、自分の 知っている近似表現で取りあえず早く言う ことです。
例えば、「花束」と本当は言いたかったけど、「束」という英語が分からない場合、上記のようにflowersで問題ないわけです。
他にも、many flowersという表現でも、言いたいことのニュアンスが出ますよね。
そうすると、相手がa bunch of flowersやa bouquet of flowersと言ってくれることがあります。
そうしたら、すかさずその自然で洗練された表現を学んで、その場で、
Yes, I received a very beautiful bouquet of flowers.と言い直しましょう。はい、私はとてもきれいな花束をもらいました。
こういうことを繰り返していけば、 話せば話すほどネイティブ表現を吸収 できるので、本物の「英語ペラペラ」にどんどん近づいていきます。
自信を持って大きい声で話す
もう一つの注意点は、失敗を恐れないことです。
「発音が悪いのかな?」「間違えたのかな?」などと、日本の人は「自分の英語は伝わらない」と思い込み過ぎです。
私が通訳した1万件の現場で、多くの日本人よりも聞き取りづらい発音や文法間違いのある英語で堂々と話していた人はたくさんいます。
また、社交の場でそのような英語で話しながら、英語が通じないのは「聞き手のセンスがないから」という態度で話している人も無数にいます。
ですから、「できない」という思い込みは手放して、「言いたいことはこれなんです。分かっていただけるとうれしいです」という気持ちで、自信を持って、大きい声で発言しましょう。
そして、「What?」と聞き返されても、自分を責めないで、ただ単に もっと大きい声で、もっと堂々と、繰り返し言って みましょう!
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株式会社ブリッジインターナショナル代表。TOEIC 280点から、独自の勉強法で半年後にTOEIC 805点を 取得 。短大卒業から3年半で通訳者デビュー。現在は自身の経験をベースにした英語学習サービスを 展開 。ひとりひとりの目的に合った効果的な学習プログラム作りを指南し、のべ1000人以上の英語力アップに貢献している。
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