city、interview、buttonの「t」はすべて発音が違う?6種類の「t」を発音し分けよう!Part 2

コロンビア大学大学院で英語教授法を学んだサラさんが、すぐに実践できる発音のコツを教えてくれる連載「コロンビア大学TESOLサラの英語発音ジム」。今回は前回に引き続き、英語学習者ならまずは押さえておきたい6種類の「t」の発音の特徴と見分け方を解説してくれました。

こんにちは、英語ジム らいおんとひよこ®代表のサラです。前回「t」の発音の違いをテーマに、さまざまな「t」の特徴とその見分け方についてお話ししました。「t」の音は日本語にもあるのでそれほど注意が必要な音だと思われていないことも多いですが、音声学的に細かく分けると10種類以上のバリエーションに発音を区別することができ、実は要注意な音でしたね。
前回はその中でも特に重要なfootball, top, stopのそれぞれの「t」を詳しく見ていきました。footballの「t」は聞こえるか聞こえないか程度に弱く発音される「無開放のt」でした。勢いよく強く発音しないで、ほんの少し「ため」を作り「寸止め」するように発音する「t」です。

一方でtopの「t」は「強く空気が漏れるキレキレのt」でした。顔の前に垂らしたティッシュペーパーが動いてしまうほど、強く勢いよく「t」を発音します。

最後のstopの「t」は力まずに普通に発音すればいい「普通のt」でしたね。この3つの理解があやふやな人はぜひ前回の記事を読み返してみてくださいね!

さて、今回の記事では、このfootball, top, stopの「t」とは別の3種類の「t」の発音の特徴と見分け方をお話しします。前回と今回で扱う合計6種類の「t」を理解すれば「t」の全体像がつかめるはずです。

たかが「t」、されど「t」ですが。「t」をしっかりと区別させて発音するとネイティブスピーカーの発音にぐっと近づきます。今回も記事を読みながらぜひ声に出して発音してみてくださいね!

なお、前回同様、本記事では見やすさを考慮し / / や [ ](特に精密表記narrow transcriptionのとき)でなく、かぎかっこで「t」と表記します。

あなたの「t」の発音マスター度をチェック

まずはウォームアップです。前回の解説も思い出しながら以下の6つの単語を声に出して発音してみてください。特に「t」の発音に注意して各単語を発音してみましょう。

football
top
stop
city
interview
button

いかがですか?これらの語は、実はアメリカ英語ではすべて違う「t」の発音になる、またはその可能性があります。発音の差を思い浮かべることができたでしょうか?今回はcity, interview, buttonの「t」の発音を解説します!

cityの「t」は「速いd」の音になるflap t

まずはcityの「t」からです。第2回でアメリカ英語とイギリス英語の発音の違いをお話ししましたが、イギリス英語ではcityやabilityやbetterなどの「t」をはっきりと発音する一方で、アメリカ英語では「t」が「速いdの音」になります。

このような「t」音はflap tと呼ばれています。flapは「はたく」という意味がありますが、flap tははたくように舌を弾いて発音します。普通の「d」というより「速いd」で発音するのがポイントです。

なお、「速いd」がピンとこない方は、flap tは日本語の「ラ行音」にも近いので「ラ行音」で考えていただいてもOKです。ただし、「ラ行音」になるからといって勢い余って英語の「r音」などにしないように気を付けましょう。

えば、partyは

party → pardy or par「リ」

とflap tになりますが、決してparryのように「r音」にはならないので注意してください。

2語以上でもflap tで発音

flap tは1語での語中だけでなく、語が連続している場合も起こります。
例えば、

get out → ge doubt

のように、「ゲ + doubt」のイメージで発音します。また、3語のhit it offなら

hit it off → hi di doff

のように「ヒ」+「ディ」+ doffのイメージで発音します。

どんなときにflap tが現れる?

さて、それではflap tはどんなときに起こるのでしょうか?flap tが現れる条件は実は少し複雑なのですが、慣れるまでは以下の2つの条件をまず覚えておけば大丈夫です。

条件1:語末に「t」があり、その後に「母音で始まる語」が続くとき。(set out, put onなど)
条件2:語の中で「母音」と「アクセントのない弱い母音」の間に「t」が挟まれているとき。(butter, Peter, cityなど)

この2つの条件のflap tを順番に見ていきましょう。まずは理解しやすい条件1「2語のパターン」からです。

1語末に「t」があり、その後に「母音で始まる語」が続くとき

set outやput onは、

set out → se doubt
put on → pu don

のようにflap tで発音されます。set outを分析すると、setでは語末に「t」があり、その後にあるoutは「母音で始まる語」ですね。よって、条件1を満たしておりflap tになります。

put onも同様です。put は語末に「tがあり、その後にあるonは「母音で始まる語」です。

2語の中で「母音」と「アクセントのない弱い母音」の間に「t」が挟まれているとき

次は条件2のパターンを見てみましょう。こちらのパターンは最初理解するのが少し難しいですが、すぐに慣れるので大丈夫です。

例えばbutter /ˈbʌtɚ/ は、

butter → budder

のように発音します。なぜflap tになるのかを分析すると、butterは第1音節 bu(t)- /bʌ/ に「母音=/ʌ/」があります。

その後の第2音節 -ter- /tɚ/ は「アクセントのない弱い母音=/ɚ/」が続いています。よって、「母音=/ʌ/」と「アクセントのない弱い母音=/ɚ/」の間に「t」が挟まれています。
したがって条件2の

母音 +「t」+ アクセントのない弱い母音

が成り立っているのでflap tで発音されます。
同様に、人名の「ピーター」Peter /ˈpiːtɚ/ も同じです。

Peter → Peder

と発音されます。第1音節Pe- /piː/ の母音/iː/の後に、アクセントのない -ter- /tɚ/ の弱い母音/ɚ/が続いています。「母音=/iː/」と「アクセントのない弱い母音=/ɚ/」の間に「t」が挟まれているのでflap tとなります。
このようなパターンでflap tになる語は数え切れないほどあります。以下の語を「速いd音」で発音してみましょう。

どの単語がflap tになるかは辞書でも調べられる!

ここまで聞くと、「flap tのルールはなんか複雑だな・・」と感じる人も多いでしょう。そんな人も安心してください。私は自分のスクールの生徒さんにはルールを提示するものの、「flap tのルールは無理して覚えなくても大丈夫」と伝えています。

と言うのも、実はどの単語がflap tになるかは辞書で調べることができます。例えば、無料で使用できるオンライン辞書「Cambridge Dictionary」でcityを引いてみましょう。すると、

city/sɪt̬.i/

のように「t」の発音記号の下に

/t̬/

のように記号((/t̬/=「有声のt」とも言えます。))があります。この記号があればflap tで発音すればOKです。このようにしてflap tを簡単に確認することもできます。

同じく、無料で使用できるオンライン辞書「Oxford Learner’s Dictionaries」でも言語設定を”American English”にしてcityを調べると、同様の結果が得られます。また、オンラインの英和辞典としては研究社の「ルミナス英和辞典」も無料で使用でき、flap tの確認ができます。

ほかにも、紙辞書や電子辞書などで利用できる研究社の『新英和大辞典』旺文社の『オーレックス英和辞典』などでも同様にflap tの確認ができます。ちなみに研究社の「ルミナス英和辞典」と『新英和大辞典』では「t」の発音記号の下に、点のような記号でflap tを表していますので注意深く見てみましょう。

普段から意識してflap tを発音する練習をしていれば、どんなときflap tになるのかがだんだんわかってくるはずです!

「省エネ」のflap tでどんどん発音してみよう!

なお、ここまで紹介してきた語や、上記辞書でflap t表記がある語の「t」ですが、「絶対にflap tで発音しなければならない」とか、「flap tで発音しないと間違い」というわけではありません。話者の話すスピードや、単語を強調して発音しているときなどはflap tにならない場合もあります。

しかし、アメリカ英語では上記で紹介した語やフレーズがナチュラルスピードで発音されるときは、かなりの確率で「t」の音はflap tになります。また、「t」を普通に発音するよりflap tで「速いd音」で発音するほうが、実は発音する際に必要なエネルギーが少なく「省エネ」で語を発音できます。どんどんflap tで発音してみましょう。ぐっとアメリカ英語らしくなります。

interviewの発音はinner view?!消える「t」

さて、ここからは次の種類の「t」を見ていきましょう。ウォームアップ問題にあったinterviewはどのように発音しましたか?第3回でもお話ししましたが、アメリカ英語では、

interview → inner view

のように、interviewのinter-「t」が聞こえず、「内面」を意味するinnerのようになることがよくあります。アメリカ英語では「n」の後に「t」が続くと、発音する際に「t」の音がしばしば消えてしまう((「n」の後に弱い母音が続く場合に「t」が消えてしまうように聞こえます。))のです。

発音する際に「t」の音が消えてしまうことを「silent t」と呼ぶことにします。silent tはどんなときも必ず起こるわけではなく、話者のスピードや話しているときの状況や単語によって差がありますが、アメリカ英語ではかなり頻繁に起こるのでぜひ覚えておきましょう。

また、silent tの知識はリスニングでも非常に重要になってきます。カジュアルでスピードが速い会話で特によく聞きます。silent tの知識がないと、なんと言われたかまったく想像もできないような音に聞こえるので、普段からsilent tに慣れておくことも重要です。

下のように固有名詞や地名などでもsilent tは頻繁に起こります。

「アメリカ国防総省」という意味のthe Pentagonなら「ペナ」+gonのように聞こえ、AtlantaはAtla+「ナ」のようになります。

なお、silent tは少し難しい言い方をすると「鼻にかかったd音」(鼻音化した弾音= nasalized flap)の一種と考えることもできます。しかし、事実上ほとんど聞こえなくなっていることも多いため、まずは「消える t」としてこれらの「t」に慣れていきましょう。

buttonの「t」は「鼻で飲み込むt」

さて、ここまでcityの「flap t」やinterviewの「silent t」について見てきましたが、いよいよ最後の「t」のバリエーションについてお話します。前回記事から合わせると、これが6種類目の「t」になります。

ウォームアップにあったbuttonの「t」はどのように発音しましたか?アメリカ英語では、button/ˈbʌtn/の「t」は実はあまり「普通のt」で発音されません。「t」が聞こえず、buttonは「バッンン」のように発音されるのです。

実は「t」の直後に「n」が来ると、「t」は「鼻で飲み込むt」になります。単語の中で発音記号が/…tn…/となっている所に現れます((このような「t」は鼻腔開放(びくうかいほう)nasal releaseと呼ばれます。鼻腔開放は/…tn…/の「t」だけでなく、/…dn…/のように「d」の直後に「n」が来るときにも現れますが、本記事は「t」の種類を扱っているため割愛します(burdenなど)。また、声門閉鎖音glottal stop(発音記号はʔと表記)として見なされることもあります。 Britainを[brɪʔtn̩]のように表記します。))。

では「鼻で飲み込むt」はどのように発音するか、ですが、以下のイメージでbuttonを発音してみましょう。

「バ」と発音する → 舌先を「t」の発音位置(歯茎)に持っていく → 「t」は発音せずその位置に舌先を保ったまま離さず「ンン」と発音する

これを素早く行うと、buttonは「バッンン」のように聞こえます。
「t」も「n」も上の歯ぐきに舌をあてて発音する「歯茎音(しけいおん)」と呼ばれる音です。発音するときの舌の位置が同じであることが影響してこのような現象が起こります。舌先を「t」の位置に持っていったら、舌先を弾いて破裂させずに鼻から抜けるように「n」を発音するイメージです。結果、「t」が飲み込まれたように聞こえます。

以下の単語で練習してみましょう。すべての単語で「t」は発音せず、上の歯茎に舌先をあてたまま「ンン」と発音します。

なお、上記の語を見るとわかりますが、「t」の直後に「n」が来ると「鼻で飲み込むt」になるというのは、スペルでなく音そのもので考えるので、発音記号で/…tn…/となっている所で「鼻で飲み込むt」が現れると考えましょう。

ウォームアップ問題の答え合わせ

さて、前回記事から2回にわたって、さまざまな「t」の発音を見てきましたが、ウォームアップ問題の答え合わせをしながら、6種類の「t」のおさらいをしましょう。
「t」の全体像

日本語の「t」と英語の「t」の違いは?

最後に、日本語の「t」と英語の「t」の舌の位置の違いについて簡単に整理して、「t」の話を終えたいと思います。英語でtop、日本語でトップ、とそれぞれ発音してみてください。何か違いはありますか?

前回もお話ししたようにtopの「t」は「強く空気が漏れるキレキレのt」なので、日本語の「t」の音とはそもそも破裂の度合いがかなり異なり勢いよく空気が漏れます。しかし、実はこれ以外にも違いがあります。英語の「t」と日本語の「t」は発音する際の舌の位置が違うのです。

一般に、日本語の「た」「て」「と」の子音「t」は「歯音」と言って、舌が歯に触れる音ですが、英語の「t」は前回の記事でもお話しした通り「歯茎音」で、上の歯茎に舌をあてて発音します。このとき、舌が上の歯にあたらないように気を付けて発音することが英語の「t」のポイントです。

舌が上の歯にあたってしまうと、日本語の「t」や「th」の音(発音記号は/θ/)に近くなってしまう可能性があります。英語の「t」を発音するときは、意識して舌の位置を高くして、舌が上の歯にあたらないように発音することを心掛けましょう。

まとめ

前回から2回にわたって、6種類の「t」の発音とその特徴を見てきましたがいかがだったでしょうか? 最初はどの種類の「t」であるか見極めるのも難しく感じるかもしれませんが、すぐに見分けられるようになるので安心してください。単語で「t」の発音が出てきたら、6種類の中のどの「t」で発音すればよいかを常に考えながら発音してみましょう。

また、発音を向上させるには発音の練習や知識も当然重要ですが、「リスニング」でネイティブの生の英語を聞き、自分の発音の知識と照らし合わせることも非常に重要です。ニュースなどを普段から聞くようにして、ネイティブスピーカーがどの「t」を使って発音しているかを常に検証していきましょう。
「t」の発音を聞けば、その人が細かい所まで発音に気を付けているかがすぐにわかってしまいます。身近な音だけに、ついつい軽視してしまいがちですが、「t」の音に気を付けると発音がぐっと上手になるのでぜひ「t」の発音をマスターしましょう!

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