ファッションから政治経済まで、変わりゆくアメリカの原動力となっている「Z世代」を多角的に考察し、現代のアメリカ文化をキャッチアップしていきましょう。NY在住のジャーナリストでミレニアル・Z世代評論家のシェリーめぐみさんに「新しいアメリカ」についてご解説いただきます。
常に移り変わるソーシャルメディア・トレンド。世界を席巻するTikTokが、今アメリカでも大躍進しています。
調査会社パイパー・サンドラーによれば、アメリカの10代が使っているSNSのトップはTikTok(33%)、2位はスナップチャット(31%)、3位はインスタグラム(22%)。
ここで誰もが聞きたい質問は、「TikTokの次に何が来る?」だと思います。でも実は、その前に問うべきことがあるのをご存知ですか?
「Z世代がSNSを使わなくなって来ているのはなぜ?」
そう、アメリカでは過去3年間、若者のSNS使用が減り続けているのです。いったい何が起きているのか?
その理由を知ることで、ソーシャルメディアが次に向かう先も見えてきます。
減り始めた若者世代のSNS使用
ピュー研究所の2021年の年齢別データによれば、SNSを1つでも使っていると答えたのは、18歳?29歳の若者世代が84%でトップでした。ところが気になるのは、この数字が2019年の90%をピークに減少に転じていることです。
もちろん理由は1つではありませんが、最大の原因はこれ。ここ数年若者世代の間にじわじわと広がっている、ソーシャルメディアのネガティブなイメージです。
Facebookの神通力が失われた
SNSの草分けで業界を支配してきた米Meta(旧Facebook)は、2021年第4四半期決算で大きな減益となり、株価は一時27%も下落しました。
原因は若者のFacebook離れです。冒頭で10代が使っているSNS上位3つを紹介しましたが、Facebookは去年の調査では5位で、使用率わずか2%という結果でした。
そもそも若者世代にとって、Facebookは親や祖父母が使うもので、最初から視野に入っていません。
でもそれ以上に、若者から敬遠されるようになったのには訳があります。去年秋に起こったスキャンダルです。
「利益最優先で作られたFacebookのアルゴリズムが、政治や社会の分断を助長している。2021年の米議会襲撃事件の原因の一つにもなった。」と元重役が内部告発したのです。その衝撃は小さくありませんでした。
若者世代は幼い頃からソーシャルメディアに親しんでいます。自分がネット上でどう見えているのか、プライバシーは守られているのかなどを常に意識しています。また人種やジェンダーなどに関わる社会正義への意識が高く、使っているサービスが世の中に与える影響や、企業のモラルにも非常に敏感です。
そんなZ世代にとって、Facebook「信頼できない」SNSに変わってしまったのです。
インスタグラムにもネガティブなイメージ
Facebookと同じメタ傘下のインスタグラムは、2015年には10代のシェアのトップに君臨していました。しかし現在は3位に転落しています。
インスタグラムを否定的に感じる原因は、メンタルへの有害な影響です。いいねの数が増えないと落ち込む、楽しそうな他人の投稿がうらやましい。誰もが写真にフィルターをかけて、実際よりもよく見せているのがわかっていても、どうしても自分と比べてしまう。それでも使うのをやめられないのは、アルゴリズムの進化でさらに依存性が高まったからとされています。
この点には、前出の内部告発者も言及しています。「メンタルに悪影響があることを知りながら、広告収入を優先して対策しなかった。」
まさに爆弾発言。これを聞いた若者たちは、すっかり裏切られた気持ちになったのです。
TikTokも無敵ではない
TikTokは2021年秋、 世界でユーザー10億人を超えてからも、順調に成長を続けています。今年中に18億人が使うようになると予想されているほどです。
独自のアルゴリズムで、面白いビデオがどんどん上がってくるTikTokは、パンデミックの巣篭もり需要に見事にハマりました。
また完璧な自分を演出するインスタに比べ、巣のままでいられる楽しい場所でもあります。かつてはダンスやペット映像中心だったのが、料理レシピやファッション、人種差別反対など社会正義を訴える動画も加わり、大学生や社会人にも支持されるようになりました。
しかしTikTokもネガティブなイメージと無縁ではありません。インスタと同様、メンタルに悪影響を与えるという問題が指摘されています。
急浮上した「アンチSNS」BeReal
そこに現れたのが、新しいSNS「BeReal」です。
2020年ローンチ。ユーザー数は過去半年で4倍の800万人に膨らみ、現在アメリカのアプリ・ダウンロード・チャートでは、TikTokとインスタを押さえてトップを走っています。
人気の理由は、これまでのソーシャルメディアの全て逆を行くスタンスです。
まず、画像投稿できるのは1日1回指定された2分間だけ。写真はフィルターなしの素のまま。共有できるのは友達同士だけ。広告もなし、インフルエンサー文化ともまったく無縁です。
こんな制限だらけのBeRealが、ネガティブなイメージに染まったSNSに対する、新たな解答として注目されているのです。
ソーシャルメディアが抱える問題は、「世界と繋がれる魅力的なサービスが、広告と引き換えに無料で手に入る」という構造そのものに根ざしています。
デジタルネイティブの若者は現実を冷静に見据え、サービスを慎重に選び始めている。それがSNS使用の伸びを鈍らせる、大きな要因と考えられます。
だとしたらSNSが次に向かう先はどこでしょうか?
FacebookがMetaと名前を変えたように、大手はブランディングをやり直すことで、有害なイメージから距離を置こうとしています。でもZ世代は騙されません。
目的によりニッチなサービスを使い分ける者もいます。ランキング4位のDiscordはゲーマーに圧倒的人気を誇るSNS。またフォートナイトやマインクラフトなど、ゲームアプリ内の小規模なメタバースにコミュニティが構築され、SNS的に機能しているのも見逃せません。
いずれにせよ、プライバシー、安全性、社会正義、企業モラルなどに敏感なZ世代に、信頼されるに足るSNSになること。そのための努力が要求されるのは、まず間違いないはずです。
知っておきたいZ世代用語
・BeReal /ビーリアル
2020年ローンチ。フランス発のソーシャルメディア・アプリ
写真投稿できるのは1日一回のみ、時間通知が届いたら、2分以内に投稿しなければならない。近しい友達の間だけで、リアルなコミュニケーションが楽しめると好評な反面、制限が多すぎるとの批判も。
・Discord / ディスコード
2015年にローンチした、グループ・チャット・サービス。ユーザーはボイス&ビデオ・チャットの他「サーバー」と呼ばれるコミュニティに参加することができる。特にゲームファンの間で人気を博し、ゲーマー同士のコミュニケーション・ツールとして欠かせない地位を獲得。
・Social Justice /ソーシャル・ジャスティス(社会正義)
社会の一人一人が、富、さまざまな機会、および社会的特権に、平等にアクセスできる正義のこと。他人種多民族でLGBTQも多いZ世代は、社会正義に関わる問題にとても敏感。
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