3月8日は女性の権利と政治的・経済的分野への参加を盛り立てていくために国連が制定した「国際女性デー」です。世界で活躍する女性に、世界の「男女平等」の在り方や今後取り組みたいことなどについてお話を伺いました。今回は、国連WFP(国連世界食糧計画)日本親善大使として活躍する知花くららさんのインタビューをお届けします。
※本記事は、『ENGLISH JOURNAL』2022年3月号に掲載した内容を再編集したものです。
食から見える世界
――世界のさまざまな国を訪れ、食べ物やテーブルウェアを通じて人々の生活を見てこられたと思います。食は世界を知る上でのキーポイントなのでしょうか?
世界中いろいろな国を旅してきて思ったのは、食はその土地の文化や習慣を凝縮したものだということです。訪問先で現地の食事を頂くことが地元の人たちとのコミュニケーションの機会にもなって、世界中のローカルフードを頂いてきました。
私は2013年から、飢餓のない世界を目指して活動する国連の食料支援機関、国連WFP(国際連合世界食糧計画、World Food Programme)の日本親善大使として活動しています(編集注:取材当時)。紛争中や内戦直後の国や地域、自然災害を被った地域、慢性的に食料が不足している地域などの食糧支援をするのが、WFP のよく知られている活動です。
現地の人たちが自立できるように促すための、食料を介した支援プログラムなども行っています。そのうちの一つに教育と密接な関わりがある「学校給食プログラム」があり、これは私の大好きな活動の一つでもあります。
世界のリアルを伝える
――国連WFP日本親善大使としてどのような活動をしているのですか?
私は2007年からWFPオフィシャルサポーターとして活動し、2013年には日本親善大使に就任しました。年に1 度現地視察を行い、そこで見聞きしたことを講演会、記事寄稿、メディア取材などを通じて発信するのが、私の主な役割です。
ここ数年はコロナウイルスの影響もあって現地視察には行けていませんが、現地のスタッフに現地の人がどういう状況にあってどう感じているのかなどを教えてもらい、リアルな現状をそのままお伝えしています。講演会などの場では、できるだけ現地の人たちとの具体的なエピソード、例えばどんな話をしたかなど、本当にささいなことでもお話しするようにしています。
忘れられない場所
――今まで訪れた国の中で、特に忘れられない地域や出来事などはありますか?
どの地域にもそれぞれ思い出があるのですが、最初に視察で訪れたアフリカのザンビアは特に忘れられません。慢性的に食料が足りておらず人々が貧困の状態にある国で、全てが「ない」ことにとても驚きました。
水もなければ、電気もないですし、道もない。病院もないし、ないものばかりで、目の前の状況を受け入れるのにとても時間がかかったのを覚えています。「何もない状況」ということを考えようとして、頭がいっぱいいっぱいになってしまいました。
私たちがこうして日々を暮らしているこの瞬間も、おなかをすかせて苦しんでいる子供たちや、命の危機にひんして苦しんでいる人たちがいる。そういったことを私たちは少しでも頭の片隅に置いておくべきだと思います。
女性の自信につながる活動
――今まで訪れた国の女性の在り方について、何か印象に残ることがあれば教えてください。
私が見てきた地域は、やはり女性の立場が比較的弱い、そういう場所が多かったように思います。女の子への教育の普及も低く、女性が自立するということがままならず、貧しい暮らしをしている。そんな状況にある女性たちにたくさん出会いました。
例えば、女性支援活動の現場を見せていただいた中央アジアのキルギスでは、女性たちは農業で生計を立てています。ところがとても寒い地域なので、冬になると農業をすることができなくなり、急に栄養不良に陥ってしまう人が多いんです。しかし女性たちは農業以外に手に職を持っていない。つまり女性が自立できる機会がほとんどなくて、農業もできなければ他に仕事もなく、貧しい暮らしを送るしかないんです。
国連WFPの活動ではそういった女性たちに、手に職をつけるプログラムに参加してもらいます。例えば刺しゅうの技術を学んだり、ハーブを作るプロセスに参加してみたりといったことがなされています。
せっけんを作る女性のグループに取材をさせてもらったときに印象的だったのが「私たちでも現金収入が得られるのよ!」ととてもうれしそうだったことです。本当に笑顔が生き生きしていて、「仕事があるってすてきなことね」と話していたのがとても印象に残っています。「仕事ができる、収入がある」というのは、直接的に女性の自信につながっているんだと感じました。
また、現地の文化や習慣を外の私たちが「それは違うよ」と言うのは少しおかしいと思うこともあります。マサイの女性の話ですが、マサイの文化では男の子が戦士として育てられていく中で、女の子たちはとても若い年齢で結婚して家庭を持って子供を産んで・・・というのが一般的なんです。私たちは「女の子にも選択の余地がある方がいい」と思うかもしれませんが、それがマサイの伝統ですし、私たちのように思わない人もいるでしょう。
でもそんな中で私が取材したマサイの女性は、自分自身でそのことに疑問を持って、そのマサイの習慣から飛び出したんです。結婚の前夜に伯母の家に逃げ出したそう。すごい話ですよね。結婚は家同士で取り決められるものなので、それを覆すというのはとてもエネルギーのいることだったと思うのですが、彼女は実際にそうして、学校に行くことを選んだんです。今彼女がどうなっているかというと、学校を建てて、その学校の先生になっています。
自分で決められるって幸せなこと
――今後、どのような活動をしていきたいですか?
彼女のように自分の生き方に疑問を持って「選択したい」と思っている女性をできるだけ支援してあげたいと、現場を見ていつも思います。今はいろいろな情報が比較的容易に手に入る時代なので、彼女たちが「集落の中ではこうだったけど、外ではこうなんだ」と違いを感じる機会が多くなっていると思うんです。そんな中で女性たちが自分の人生について考えるようになっても、もちろん不思議ではないですし、女性がより幸せに暮らすためにどういうネットワークがあるのかを知ることは、今後を生きる上でとても大切になってくると思います。
日本に住む私たちには、選択肢が数多くありますよね。それは幸せなことだと心から思うんです。自分で決めていいって、幸せなことですよね。
みんなが違うことの豊かさ
EJ3月号では、知花くららさんが持つミスコンに対する考えや世界に飛び出すことのす素晴らしさ、一人一人が持つ個性の大切さなどについて語ります。
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取材・文:知夏七未
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