あなたならどうする?混乱の異文化体験3つ【華恵の世界に出会うノート】

あなたならどうする?混乱の異文化体験4つ【華恵の世界に出会うノート】

小学生の頃からモデルやエッセイストとして活躍し、テレビやラジオでも大活躍の華恵さんに、人との出会いで心が温かくなった、ふんわり楽しい、すてきな出来事を感じたままに伝えていただく連載です。4回目は、華恵さんが体験した異文化体験です。

「あなたの靴を買わせてください」ってどうするつもり?

毎回、大学4年の時の父とのニューオーリンズ旅について書いている気がする。それだけ印象深かったのだろう・・・。

一つ、不可解な思い出がある。

古い高級レストランで父と食事をした。店内はテーブルのろうそくが暖かい雰囲気を醸し出していて、ガンボもジャンバラヤも、重厚感のあるおいしい味だった。

父は珍しく、おごってくれると言った。会計の間、私はレストランの外に先に出た。生ぬるい夜の空気を、胸いっぱい吸い込む。あぁ、気分のいい夜だ。

道の向こうから、よれっとしたTシャツを着た白人男性が歩いてきた。ニューオーリンズで、伸びきった服を着ている人は珍しくない。ジーパンにTシャツ姿で片方の肩にタオルをかけ、もう一方の肩にトランペットを担いている人が、地元の有名ジャズミュージシャンだということだって、全然ある。

よれっとした格好の男性は普通に街に溶け込んで見えたし、私は特別に何も思わなかった。その男性に話しかけてこられるまでは。

この男性の言葉の南部アクセントは、なかなかに聞き取りにくかった。だが、陽気に何度も同じ言葉を繰り返してくる。4回目で、分かったような気がした。

“Where you got your shoes?”

と、聞こえる・・・。

“My shoes?”

“Yeah, Yeah.”と笑って言ってくる。

これは、母に買ってもらった革のサンダルだ。サンダルと言っても、足の指とかかとはちゃんと覆われていて、ヒールが低くて品のあるちょっといい靴。男性は、ナイスな靴だね、と褒めようとしてくれているのかな。

Well I bought this in Japan but it's made in Germany.”

答えながら、男性のリアクションを見ると、たどたどしい私に少し苛立っているように見える。私の答え、何かずれていたのかな。

Well, what I want to ask you is that, can I buy your shoes?”

あなたの靴を、売ってくれませんか・・・?この男性は一体、何を言っているのだろう。男性の足元を見ると、彼は汚れたスニーカーを履いていた。

Well ... ”

母が買ってくれた靴だし、そう簡単に知らない人にあげられない。それに、わりと気に入っているし・・・返答に困っていたら、父がレストランから出てきた。父は男性を見て、少し慌ててこちらへ向かってきた。すると、父に気付いた男性は舌打ちをし、スタスタと夜道の向こうへ消えて行ってしまった。

帰り道、父から聞いて驚いた。さっきの男性はホームレスだというのだ。「全然分からなかった」と目を見開いていると、父は「日本のホームレスしか知らないと、仕方ないかもな」とため息をついて言う。

それにしても、あの男性は、私の靴をどうするつもりだったのだろう。今考えたら、私よりも彼は足のサイズが大きそうだったし、だいたい私の靴は女物だ。改めて父に、男性との会話の詳細な内容を伝えてみる。すると、父の顔の緊張が緩み、ふわっと笑いながら

“Hanae, that's a really good experience. I mean … that’s GOOD.”

なんのことだか、チンプンカンプンだ。父によれば、あれは、ニューオーリンズのものすごく古いジョークらしい。

昔、乞食が、優しそうなお金持ちに、「あなたの靴を買わせてください」と話しかけた。お金持ちが相手を気の毒に思い、タダ同然の安い額を伝え、靴を差し出す。しかし、お金持ちは履いて帰る靴がない。そこで、「代わりにあなたに自分の靴を売ってあげましょう」と乞食が言い、大きな金額を提示し、相手から靴も金も巻き上げる、という。・・・まぁ、異文化のいたずらやジョークは往々にして、すぐにはピンとこない。私は、ふーん、としか反応できなかった。

しかし、父は妙に感動している。このジョークは本当に古く、60歳を過ぎた父でさえ、話でしか聞いたことがなかったらしい。それを、さっきの男性は私にふっかけてきた。

「今でもあのジョークを言う人がいるなんてな。聞いてみたかったよ。」

そしてしまいには、「ハナエがもたもたしていたから、英語のできなさが、自分の身を守ったんだな」と笑い出した。ふん。面白くない。なんとも、消化不良な経験となってしまった。

 

ハグには応じたけど、キスを求めていたの?

私が小学5年生の頃、東京の大塚駅で妙なアジア人に出会ったことがあった。

兄と母と電車に揺られながら、私は母に怒られ、ふてくされていた。最寄り駅の1つ前の大塚駅で、電車の扉が開くと、私は「もういいっ!」とすねて電車を降りた。ホームから母と兄をにらんでも、2人はあきれてこちらを見るだけ。そのままプシューッと電車の扉は閉まった。「いいから乗りなさい」の一言もないのか。まったく冷たいものだ。むしゃくしゃして、次の電車を待った。

“Excuse me.”

話しかけてきた男性は、インドとか、バングラデシュ人系だろうか。南アジア系に見えた。新宿行きは何番線かと聞いてきたので、教えてあげた。すると、“Thank you.”と言って、手を広げてきた。ハグで感謝を示したい、ということだろうか。私はハグに応じた。

しかしその後、“No, no.” と彼は言ってくる。何が違うのだろう。男性は首を傾げながら、また手を広げているので、とりあえずまたハグに応じ、彼の胸に顔を近付けると、彼の顔が正面にきた。えっ! と驚き、慌てて頬にチュッとした。あいさつのキス、が必要だったってことかな・・・。

No, no." 彼はなお言い、唇にするのだと、唇と指差して説明してくる。はて。そんな文化があるのだろうか。しかも、こんなに何度も、やり直しをせまられるものだろうか・・・?

“Sorry, but my boyfriend is waiting for me ...”

私はとっさにめちゃくちゃな嘘をつき、くるりと背を向けてホームの階段を駆け下りた。そのまま、走って家まで帰った。心臓がばくばくして、家に着くまで一度も後ろを振り返らなかった。

あの男性が、日本語を使っていたら、私はもう少し冷静に判断できたかもしれない。相手が日本に慣れていない様子を見て、親切にしてあげたいと思い過ぎた。それに、多分私は、英語ができる子どもなのだということを示し、背伸びをしたかったのかもしれない。今思えば実に危険で、間抜けだった。

もちろん、知らない人との会話では楽しいこともたくさんある。

ニューオーリンズでは、久しぶりの再会を果たすときに、通りの向こうから、“HEEEEYYYY!! How’re you doing!”と、大きな声を出す人たちがたくさんいる。フレンドリー、かつ、オーバーなのだ。一度、「オーマイガーーーッ」と笑顔で叫びながら近づいてきた黒人女性がいた。旧友との再会を喜んでいるような超感動的な表情で、私に向かって走ってくるが・・・見知らぬ女性を前に固まっていると、“Oops! Sorry!”と彼女はあっさり人違いを認め、笑顔でバイバーイと言った。

実に潔い。英語に少し萎縮していた私も、プハッと笑い、肩の力が抜けてしまうようなシーンがたくさんあった。

ばかにして笑っているとは限らない

ニューオリンズでは、宿泊している所の近くのショッピングモールには、1日一回くらい行っていた。

あるとき、会計をしていたら、“Where are you from?”と聞かれた。顔を上げると、胸とお尻が大きい黒人のお姉さんがじとりとこちらを見ている。レシートを持っているが、答えないと渡さないわよ、みたいに、もったいぶる。

“I’m half American and half Japanese.”

じゃあ日本語話せるの?とさらに聞かれる。“Yes.”と答えたら、彼女は、ちょっと!と遠くを見て手を挙げた。

もう一人、でっぷり太った黒人女性が歩いてきた。二人にじろりと見下ろされた。何が始まるのかと思ったら、「ちょっと、日本語話してみてよ」と言われた。

こういうのって、困るんだよな。日本でも、子どもの頃から、英語を話してみてよ!と友達に言われ、言われた通りに話すと、うぎゃー!となぜか笑われたものだ。モノマネもされた。そもそも意味も分からないのに、なぜ話してみてなんて言うのか。そしてあのリアクション。何がそんなに楽しいのか。そう思ってきたものだが・・・。

なぜかこのとき、私は、思い切ることができた。息をたっぷり吸い込んで、「初めまして、私はハナエです。日本からニューオーリンズにきました」

女性二人は、目を見開き、“Oh my god!!”と言いながら、腹を抱えて笑った。そして「もう一回言って」とアンコールを求めてきた。喜んでお応えした。二人は涙を拭きながら、「最高!」と言って、私に握手まで求めてくる。帰り際には、明日も何か買いに来る?また会いたい、と言ってくる二人が、可愛く思えた。

笑う、というのは、決してバカにしているとは限らない。リアクションが大きいのも、笑うのも、楽しいからこそ。私も一緒になって気持ち良く笑っていた。日本語ほどは慣れていない英語だからこそ、人の仕草やリアクションを変に考え過ぎない。シンプルに受け取ることができると、気持ちがほぐれて、心地がいい。また明日ね〜、と帰り際にレジの彼女たちに別れを言い、私は小走りで、父の待つ車まで戻った。もしもニュオーリンズに住んでいたら、彼女たちと友達になりたかったかも、とちらりと思った。

華恵さん出演情報

◆TBS『世界ふしぎ発見!』のミステリーハンターとして出演。

◆「simple style ~オヒルノオト~」JFN<毎週月・火曜日担当  11:30~12:55

◆「渋谷のかきもの」 毎週月曜日 14:10~15:00  (毎月最終週はお休み)
  周波数:87.6MHz アプリ試聴可能 <渋谷のラジオ

◆「華恵の本と私の物語」 第3土曜日掲載 <毎日小学生新聞

華恵

文:華恵(はなえ)

エッセイスト/女優/ラジオパーソナリティー。TBS『世界ふしぎ発見!』にミステリーハンターとして出演など、大ブレイク中。アメリカで生まれ、6歳から日本に住む。10歳からファッション誌でモデルとして活動。小学6年生でエッセイ『小学生日記』(プレヴィジョン)を出版。中学生、高校生で多数のエッセイを執筆し、活躍の場を広げ続ける多才なアーティスト。

華恵オフィシャルサイト|ORIHIME
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写真:山本高裕
編集:増尾美恵子