リスニング力を付けるために乗り越えなければならない壁がある――。その壁の攻略法を、「1000時間ヒアリングマラソン」の主任コーチ松岡昇さんにお教えいただきます。
この連載の前回の記事(第4回)では、コア教材による 具体的な 取り組み 方、 「松岡式12ステップ英語独習法」を紹介 しました。今回は、その「独習法」の中で、中核になっている ディクテーション(STEP 2と3) について、その効用をお話しします。
英語リスニングの「4つの壁」
私たちの前には「4つの壁」(下図)が立ちはだかっていると思われます。
① 速度の壁
多くの学習者がネイティブスピーカー(以下、NS)の話す英語は速くてついていけないと言います。その速度は 平均秒速3ワード 、つまり1秒間に3ワードの速さです。I love you. なら1秒です。NSに言わせれば当然のことですが、これがナチュラルなスピードです。
② 音声語彙の壁
文字で書いてあると分かるが、音声では分からないことが多い、という声もよく聞かれます。これは①の「速度」と③の「音の変化」とも関係しますが、何より、 聞いて瞬時に分かる語彙が 不足 している ということです。
③ 音の変化の壁
NSの発音は1語1語がはっきりと聞こえない、という声も聞きます。単語の発音は文中で発音されると、前後の 影響 などで辞書に表記されている音と異なることがしばしばあります。このため、 「音の認識→語の理解」が困難 になります。
④ 語順の壁
日本人にとって、英語リスニングで文法上の問題と言えば語順です。リスニングではリーディングと違って、文をさかのぼって読み返すことができません。「あなたが薦めてくれた本」であれば、the book you recommended であり、修飾語と被修飾語の語順が日本語とは逆になっています。この 相反する語順が瞬時の理解を困難に しています。
「4つの壁」を攻略
以上の「4つの壁」を攻略するためには、音読、シャドーイング、リピーティング、ディクテーションなど、さまざまな練習があります(いずれも 前回ご紹介した「松岡式12ステップ英語独習法」 に組み込まれています)。
音読やリピーティングは②「音声語彙の壁」や④「語順の壁」を乗り越えるのに、また、シャドーイングは①「速度の壁」や④「語順の壁」を乗り越えるのに効果的です。そして、残った③「音の変化の壁」の対策がディクテーションです。
英語の「音の変化」
音の変化は実に厄介です。英語では複数の語が連続して発音されると、隣り合う語が相互に 影響 し、発音がしばしば変化します。 代表的なものとして次の3つ があります。
文字の表記 | 音の聞こえ方 | |
① 連結 | This is a pen. | Thi si sa pen. |
② 同化 | Did you sleep well ? | Di dyou sleep well ? |
③ 脱落 | Take care . | Ta(ke) care. |
① 連結
前の語末の子音とそれに続く語頭の母音が連結する現象。上の例では、This is a pen. が「ジィ・スイ・ザ・ペン」のように聞こえます。
② 同化
隣り合う2つの音の一方が他方の音に 影響 を与えて、同じ音になったり、混じり合った音になる現象。上のDid you ... の例では「ディ・ヂュゥ」のように変化します。
③ 脱落
似た音が隣り合ったときに、一方が他方の音を吸収して、片方の音が聞こえなくなる現象。上の Take care . の例では、「テイ()・ケア」のように聞こえます。
上に挙げた3つ以外にも、注意すべき発音があります。
④ 弱化
冠詞、代名詞、助動詞、前置詞、接続詞などの機能語が弱く発音され、Go and pick her up. が「ゴゥ・エン・ピッカー・ラップ」のように聞こえます。
⑤ 暗いL
will や milk のように [l] が語末か子音の前に来ると、「ゥ」に似た暗く鈍い音になり、I’ll ... が「アイゥ」のように聞こえます。
ディクテーションのアハ体験を積み重ねる
上述したような「音の変化」は、 知識として覚えるだけでは意味がありません 。
この知識は、 ディクテーション(「独習法」のSTEP 2) の後の 答え合せ(「独習法」のSTEP 3) でエラーの 原因 を探る際に参照して、初めて意味を持ちます。
したがって 、ディクテーションを行った後は必ずスクリプトと照らし合わせ、エラーチェックをしてください。「あー、あの『アイゥ』と聞こえたのは I’ll だったのか」とアハ体験(あー、そうだったんだという体験)を積み重ねることが、「音の変化の壁」の攻略につながります。
参考図書
- 作者: 松岡昇
- 出版社/メーカー: アルク
- 発売日: 2011/10/19
- メディア: 単行本
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松岡 昇(まつおかのぼる)
青山学院大学大学院国際政治経済研究科修了。専門は、国際コミュニケーション、社会言語学。現在、獨協大学、立教大学及び大手企業を中心に講義やセミナーを務める超人気講師。 NPOグローバルヒューマンイノベーション協会理事。アルクの通信講座「1000時間ヒアリングマラソン」の主任コーチ。著書も多数ある。