どうして日本には英語ネイティブスピーカーと「対等」に渡り合える人が少ないのか?英会話力「ほぼゼロ」の状態から、英語を独自に猛勉強して単身渡米し、米名門大学院で神経科学の博士号を取得した、さかいとしゆきさんが、自身の経験を基に、世界に通用する英語力、思考力、表現力、コミュニケーション力を身に付ける方法を紹介します。第2回は、「渡米後の厳しい現実とその克服方法」です。
目次
アメリカで、英語力で「本当に足りなかったもの」が判明
前回 は、アメリカで生活し勉強するために欠かせない「5つの英語スキル」の習得法をお伝えしました。
▼前回はこちら↓
gotcha.alc.co.jp今回は、その5つのスキルをもってしてもアメリカでの留学生活が大変だった現実と、その状況を打破するのに効果的だった「アクティブ・イマージョン」(積極的英語漬け)などについて紹介します。
「究極の孤独」との遭遇
ようやく渡米し、アメリカで念願の大学生活を始めた私でしたが、それは今までに味わったことのないような「究極の孤独」の始まりでもありました。
大学の授業では何とかついていけるものの、いざクラスを飛び出すと、地元のアメリカ人たちとどうしたら親しくなれるのかがまるで分かりませんでした。
知り合いに会うたび、簡単なあいさつなどはしますが、そのあとの会話が全く弾みません。もちろん私のような外国人に優しく接してくれる親切なアメリカ人の方もいましたが、腹を割って深い話をする仲になることはまずありませんでした。
いつまでたっても、 「観光客」として扱われている 感じが抜けなかったのです。
当時の私の英語コミュニケーション能力には、決定的な「何か」が足りませんでした。
ホームステイ先では別の留学生の「寡黙な弟」
一番つらかったのは、学校での長い一日を終えてやっと帰ってくるホームステイ 先に さえ、「自分の居場所」がなかったことです。
当時は、中国人のホームメイトとともに、大学の近くに住むアメリカ人家族のところにホームステイをしていました。そのホームメイトは、つたない英会話力 にもかかわらず 非常に社交的で、ステイ先の家族と常に笑いを交えてコミュニケートしていました。
私はというと、大学の授業についていける英語力はあるのに、普段の会話を弾ませるという能力が決定的に欠けていました。ステイ先の家族と一緒に食事をしていても、 表面的な会話はできても すぐに 沈黙 ということを繰り返していました。
20歳を越えて渡米したのに、ステイ先では社交的なホームメイトの横に座る「寡黙な弟」のような扱いをされ、それが情けなくとてもつらかったのを覚えています。
アイデンティティー・クライシスに陥る
留学して間もないころの私は、自分のことを言葉でうまく表現できないため、自分が何者なのかに自信がなくなっていく「アイデンティティー・クライシス」(identity crisis)に見事にはまってしまいました。
さらには、ホームメイトはよく『フレンズ』のようなコメディーを見て大笑いしていましたが、私には何が面白いのかさっぱり分からず、たまらず作り笑いをしていたことさえあります。こういった状態が長く続くと、いよいよ精神的にもつらくなっていきました。
当時の私は、自分を認めてもらえる場所がどこにもない、 突き抜けた孤独感にどっぷり漬かっていた のです。
しかし、この深い孤独感には思わぬ結末が待っていました。
会話を1年観察し続けて、急激に英語力が伸びた
実は、この「究極の孤独」感こそが、生きた英語を急激に上達させるプロセスの始まりだったのです。
当時の私は、孤独感に苛まれながらも、 アメリカ人がどうやって会話するのかをよく観察 し、学ぶことをやめませんでした。何があってもいつか同じように話してやるという食らいつくような思いで、毎日を過ごしました。
それをおよそ1年くらい続けたころから、私の英語力はびっくりするほど伸び始めたのです。
力不足の実感が伸びの原動力に
逆に、つたない英語で満足していた私のホームメイトの英語は、数年たっても驚くほど変わりませんでした。
また、孤独感から逃げてしまい、同胞と自国語ばかりを毎日話していた留学生の英語も、成長がパタッと止まったように伸びませんでした。
この体験によって、 言語力の欠如から来る孤独感と正面から向き合うことでしか、本当の英語力は付かない のだと悟りました。
話せなくて悔しい、寂しい、惨めだと思うことは、逆に、それほどまでに自分の英語力の無さをはっきり自覚できているということだったのです。
その結果、アメリカ人のように話すにはどうすればいいのかを、驚くほど高いモチベーションで毎日学ぶことができました。
留学しても英語力が伸びない要因
それでは、渡米後の初めの数年間で、私の英語力はどうやって急激に伸びたのでしょうか。
日本では昔から、英語をマスターするには「英語漬け」が重要とよく言われます。
しかし、アメリカに何年も住んでいるのに、簡単なあいさつや世間話以外は驚くほど英語力が欠落していて、アメリカ人からしたら理解に苦しむレベルの英語力しかない外国人がたくさんいます。
これには大きな要因があります。
それは、英語圏にいながら、孤独感から逃げて、英語漬けの生活を全く送っていないことです。
私が通っていたカリフォルニアのコミュニティーカレッジでは、大勢の日本からの学生たちが毎日、食堂の同じテーブルを陣取り、日本語で話すという生活を当たり前のように送っていました。クラス外では、それほど英語が話せなくても、他の日本人の助けを借りていれば何とかなるという状況になっていたのです。
しかし、このような同胞コミュニティーに入り浸り、 地元の人々とほとんど交流しない人たちの英語力は、驚くほど伸びません でした。
一方で、積極的にさまざまな国の人々と話していた留学生の英語は、あっという間に伸びていきました。
アクティブ・イマージョンで英語力が飛躍的に改善
では、日本語を全く話さなければ、本当に英語はうまくなるのでしょうか。
アメリカで10年以上暮らしてきた私の経験から、 単なる「英語漬け」では、アメリカ人と対等に対話できる英語力はほぼ付きません 。
アメリカの大学レベルの高度な英語力を付けるには、英語を受け身で聞き流すのではなく、 「アクティブ・イマージョン」( active immersion、積極的英語漬け) が必要不可欠なのです。
このアクティブ・イマージョンこそが、私が経験した急激な英語力の進歩をもたらした一番大きな要因だったのです。
英語が「生きるための最大のツール」に変わった
渡米するまでは、私は英語を単なる言葉として勉強していました。しかし渡米後、 英語は単なる「言葉」ではなく「生きるための最大のツール」 という認識に変わりました。
成績競争の激しいアメリカの大学では、英語力を伸ばせなければ成績も上がりませんし、もし 単位 を落とし続けるようなことがあれば、ビザの関係で強制的に帰国という 可能性 がありました。
夢にまで見たアメリカの大学に残るには、自分の英語力を死に物狂いで伸ばすしかなかったのです。
孤独感から強いモチベーションが生まれた
英語を伸ばさなければ、深い孤独感がずっと続くという恐れもありました。
それをなくすには、周りのアメリカ人たちと積極的にコミュニケートして、生きた英会話力を身に付けるほかありませんでした。
脳が英語を生存のためのツールと強く認識することから湧く、学びへの強いモチベーション、これが私の経験したアクティブ・イマージョンの神髄だったのです。
アクティブ・イマージョンを続けることで、先生やクラスメートとのコミュニケーションが飛躍的に円滑になり、渡米当初に感じた孤独感は次第になくなっていきました。
しかし、アメリカの大学で勉強していくには、普段のコミュニケーション能力以外にも、次で紹介する 具体的で高度な英語スキル が要求されました。
必須スキル1:情報処理能力
まず大学生活を始めた当初に一番驚いたのは、 毎週課される膨大な量のリーディング でした。
1学期に大体4、5クラスほど履修し、全てのクラスで毎週数十から多いときには100ページ近くの難解な教科書や本を読むことが課題で要求されました。
しかもそれは、受け身で読み流すのではなく、重要な詳細を暗記しながら、段落、章ごとの要点を自分なりにまとめ、それを基にテストやクイズ(ミニテスト)に答える必要がありました。
さらには、頻繁に行われるクラス全体のディスカッションで、リーディングに基づいた意見を論理的に述べる力が要求されました。
これを数カ月間、ほぼ毎週のようにこなさなければなりませんでした。
必須スキル2:クリティカル・シンキングに基づくライティング力
前回の記事 で紹介したように、日本で行ったライティング練習のおかげで、多くのクラスで出されるライティング課題には何とか対応できました。
アメリカの大学を卒業するころには、日本にいたころに書いていたエッセイよりさらに成熟したアメリカの大学のスタイルにのっとったエッセイが書けるようになっていました。それは、現地の大学で徹底的に学んだ クリティカル・シンキング( critical thinking、批判的思考) の概念のおかげでした。
クリティカル・シンキングでは、物事を 分析 する際に、まず 自分の主観や立場を外し、バイアスのない状態で、さまざまな関連事実を慎重に吟味 します。そして、それらを総合して、最も客観的な結論を出すのです。
このクリティカル・シンキングの概念を念頭にエッセイを書くことで、どんなテーマについても、より客観的、論理的に意見を 主張する ことができるようになりました。
必須スキル3:積極的な発言力
そして私が一番苦労したのは、どんなクラスにいても自由自在に意見を言える 積極的発言力の習得 でした。
日本ではずっと黙って先生の言うことをうのみにしていた私は、授業中に自分独自の意見を言うことなどめったにありませんでした。しかしアメリカでは、意見を 主張 しなければ、本当に何も始まりません。
まず私は、毎週課される リーディングの課題を人一倍徹底して行い 、他の学生よりも、より多くの情報や伝えたいことを頭に入れて授業に臨むということを継続的に続けました。
すると、自分が述べる意見は課題に基づいた正確なものだという確信を持てたので、皆の前でも臆することなく発言することができるようになりました。
さらには、クラス全体のディスカッションに参加するには、アメリカの大学のスタイルによるディスカッションのルールを学ぶことが重要でした。それは、 誰がどのような意見を述べたかを 把握 し、それに十分な理解を示した上で、自分の意見をスムーズに述べる という「建設的」議論のルールです。
前後の脈絡を全く無視して、自分の意見を放り込むのは単なる意見の押し付けであり、それはディスカッションでもなければコミュニケーションでもありません。
必須スキル4:革新的で独創的なアイデアを生み出す力
現在、大学教育、ビジネス、サイエンスなど多くの分野で世界を圧巻しているアメリカで重宝されるのは、「革新性」「独創性」「オリジナリティー(独自性)」など、日本の学校ではあまり積極的に伸ばされていない、個人の資質です。
それはアメリカの大学教育にも浸透しており、一目置かれるためには、自分独自の独創的アイデアを恒常的に生み出さなければなりません。
日本からの留学生の多くは、英語力が十分な学生でも、授業中「借りてきた猫」のように寡黙な生徒が多いです。その多くは、日本の学校での一方的な受け身の授業に慣れ過ぎていて、自分の意見を形成し、それを述べるということがとても苦手になっているようです。
さらには、他のクラスメートの「空気を読む」ことを意識し過ぎて、間違えるのを恐れるあまり、何も話さないことを選ぶのです。
しかし、アメリカの大学では、他の人に同調した意見には興味を持ってもらえません。
極めて多様なアメリカ社会には、「読むべき空気」、 すなわち 同調すべき行動の規範などはありません。 空気を読む癖をなくして、自分独自の意見を生み出す ことが非常に重要です。
世界で本当に必要なのは社会的コミュニケーション能力
紹介した4つのスキルを数年にわたって繰り返し磨くことで、次第に考えなくても実践できるようになり、その分、他のより重要な思考にエネルギーを使えるようになっていきました。
これは、のちにアメリカの大学院に進んだときに要求された、膨大な量の課題や難解なリーディングをこなしつつも、自分独自の独創的なアイデアを 同時に 考え出すという、高度な英語・学術スキルの発展につながりました。
そして最終的にアメリカの大学院の博士過程で勉強し始めて、分かったことがあります。
それは、今日の国際社会で本当に重要な英語スキルとは、 極めて多様な環境の中で、あらゆる個性を持った人々と柔軟に信頼関係を築ける、社会的コミュニケーション能力 だということでした。
それは、渡米前から生きた英語の習得法を着実に実践していたからこそ達成できた、高度な英語コミュニケーション能力だったのです。
※次回の記事は、12月13日に公開予定です。
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編集:GOTCHA!編集部
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