「接触」のイメージで捉える、前置詞「on」の攻略法~そもそも前置詞って何だろう?

英文法を支える基礎でありながらも、上級者でもマスターが難しい前置詞。on、with、alongなど、基本的な前置詞のコアとなるイメージを覚えることで攻略し、苦手を得意にしていきましょう!

前置詞って簡単にいうと何?

英語の前置詞は、英語学習において、最難関な項目に含まれます。ここでは、その前置詞をどうやって攻略すればよいか、onを事例にしながら解説していきます。そもそも「前置詞」って、文字通りに言えば、「前に置く詞(コトバ)」とありますが、それってどういうことと疑問をお持ちの方もおられると思います。英語でもprepositionといい、確かに「前に置く詞」です

There is an apple in the box.という簡単な例を使って説明します。英語では、an appleとthe boxの2つのものがあり、それをinで関係づけています。in the boxのthe boxは学校文法では前置詞の目的語といいますが、the boxの前に置かれるという意味でinは前置詞と呼ばれるのです。There is an apple in the box.を日本語にすると、「箱の中にリンゴがあります」になります。inは日本語のどこに対応するのでしょうか。通常は、「中に」がinだと考えると思います。

ところが、日本語の「中」は「上」や「底」や「横」と同様に形名詞と呼ばれ、「箱の中(上、底、横)」がひとつの名詞です。そして、助詞の「に」があることで、「箱の中」と「リンゴ」が結びついています。この「に」のことを「後置詞」と呼ぶことがあります。「箱」の後に置かれた詞だからです。

このように前置詞は、それが置かれる位置関係を表した表現にほかなりません。英語の前置詞を攻略するには、前置詞の働きと意味に注目する必要があります。一言でいえば、前置詞には、2つのものを空間的に関係づける働きがあります。an apple in the box、an apple on the box, an apple by the boxを比べてみてください。前置詞によってリンゴと箱の空間的関係が異なりますね。

前置詞の中には時間や様態を主として表すものがあるのはたしかです。例えば、during、until、since、before、afterは時間的な意味合いが強いですね。また、asやlikeも前置詞として使われ、基本的には、「~のように」とか「~として」という意味合いで、空間とは関係ありません。

しかし、in、on、at、over、above、under、below、beyond、across、through、along、for、to、with、against、off、of、intoなど主要な前置詞は空間的意味が中心です。だから、英語は表現のしかたにおいて、空間的であるという特徴があるのです。例えば、川端康成の『雪国』は「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」ではじまります。この小説を翻訳したEdward Seidensticker はThe train came out of a long tunnel into the snow country. と訳しました。come out of ~ into ...の部分は見事に空間的な描写ですね。

コアで学ぶ前置詞

さて、英語の前置詞をどう捉えればよいかです。辞書をみると、前置詞にたくさんの「意味」がリストされています。そして、前置詞の意味は多様で、複雑だと考えるかもしれません。例えば前置詞inの場合、「場所(in the kitchen)」だけでなく、「心理状態(be in love)」、「手段・素材(make a speech in English)」、「所属・従事(be in the army)」、「原因(scream in pain)」、「部類(the longest river in the world)」などたくさんの「意味」があります。この中から「原因」ひとつとっても、forやwithにも「原因」という意味が載っており、使い分けが問題になってきます。

そこで質問です。そもそも、inやforにたくさんの意味があるのでしょうか。答えはノーです。結論を言うと、ひとつの前置詞にはひとつの意味があり、それがさまざまな状況で使われるのです。ここでいう「ひとつの意味」のことを「コア」と呼びます。辞書でリストされているいわゆる「意味」は、前置詞が使われる「状況」を示していると考えることができます。

inのコアは「空間内(に、で)」というものです。in the roomのように三次元の空間が典型的ですが、in the parkのように二次元の空間もあり、また、in the rainのように境界がはっきりしない空間でもinを使います。もっと思い切った言い方をすると、inが使われる限り、in XのXは空間的な何かとして理解されるということです。

in loveという用法を考えてみてください。この場合、loveに形があるわけではありません。しかし、in loveと言うことによって、心理的な空間としてloveが認識されるということです。だから、「恋する」だとfall in love、「恋している」だとbe in love、「失恋する」だとfall out of loveと表現できるのです。比喩的に容器のような空間として認識しているからこそ、out ofも可能なのです。このように理解すれば、in Englishは「英語という言語空間内で」、in the armyは「軍隊という社会的空間内に」、scream in painだと「苦痛の中で叫ぶ」のように、空間をイメージすることができます。

それぞれの前置詞のコアを理解し、それを使って、さまざまな状況に応用させる。これが前置詞攻略の方法です。以下では、onを取り上げて、コアの力を見ていきましょう。

Onの意味の世界

onの意味を「~の上に」と理解しているとその本質を捉え損ないます。onのコアは「接触」です。イメージで表せば、次のようになります。

床であれ、壁であれ、天井であれ、何かが接触している状態はonで表現することができます(ただし、それは目に見える場合であって、机の裏に接触している場合は、under the deskと言います。接触状態を目で見ることができないからです)。The cat is on the sofa.のように、水平面への接触だけなく、The fly is on the wall.のように、垂直面への接触もonです。だから、the steam on the car window(車の窓の曇)、the shadow on the wall(壁の影)のような状況でもonを使うことができるのです。

乗り物に乗り込むとき、バスはget on / in a bus、タクシーはget in a taxiと言いますが、それはどうしてでしょうか。それは、バスの床の部分を「面」としてとらえることができるのに対して、タクシーの場合は「入れ物」のイメージが強いからです。もちろん、バスを入れ物とみなせば、get in a busと言うことができます。ちなみに、自転車に乗る場合は、get on a bikeであって、get in a bikeとは言えません。

接触といっても、面だけでなく点への接触というのがふさわしいような状況があります。例えばapples on the tableだと「テーブルに置かれた複数のリンゴ」を思い浮かべるでしょう。これは面への接触の典型例です。しかし、apples on the tree(木に実ったリンゴ)と言えば、どうでしょうか。下の写真のように、リンゴは木の枝から垂れ下がるようになっているのであって、リンゴの茎の部分と枝の関係もやはり接触関係です。しかし、これは面への接触とは言い難いですね。これは点的な接触(1点で接触している状態)の例です。

a fish on the hook(にかかった魚)も点的な接触のわかりやすい例ですね。

応用編

「面への接触」が意味展開することで「支える」といった意味が出てきます。水平関係においては、X on YのYは、Xの「土台」としての役割を果たします。a bottle on the table(テ-ブルの瓶)といえば、the tableが土台としてa bottleを支えるという関係が成り立ちます。the man on his backだと「仰向けになっている男(背中を支えに寝ている男)」、stand on one's handsだと「逆立ちをする(両手を支えに立つ)」、a table on four legsだと「4本脚のテーブル(4本の脚を支えにするテーブル)」の意になります。

「支える」の展開として「依存」の意味が派生します。 count on(当てにする)、rely on(頼りにする)などの表現はその例です。なお、類似した表現にdepend onがありますが、これはむしろ「誰か(何か)にぶらさがる」といった感じです。

「支える」だけでなく「(何かに)乗って」という意味合いもonにはあります。上でも指摘しましたが、Children are on the bus.だと「子供たちはバスに乗っている」という内容です。この場合、バスは動いている状況が想定されます。同様に、Everything is on schedule.(すべて予定通りです)も「スケジュールにのっている」というのがここでのonです。on the airといえば「放送中、オンエア」の意ですが、これも「空(気流)にのって」という意味合いです。in the airだと「空の中に(で)」という意味になります。

「~について話す」という場合、talk aboutが典型的ですが、talk onとonを使うことがあります。onを使うと、ある特定の話題に接触して離れないということから、専らその話題について述べるという意味合いになります。aboutはその話題を中心にしつつもそれに関連した周辺的な内容にも言及するというものです。専門書などで、議論が専らある話題に接して離れないという場合、onがぴったりですね。これは話題の固定の例とみなすことができます。

(特定の)日にはonを使うのはどうしてでしょうか。私たちが、時間を意識するとき、それはふつう、点として意識するか、幅として意識するかのどちらかです。点としての時間はat、幅が感じられればinを用いられます。しかし、on Christmas Dayといえばどうでしょうか。曜日や祝日や誕生日などは、カレンダーの上で固定しています。onの「接触」は「特定の日時の固定」にも展開するのだと言えるでしょう

最後に、onには動名詞を伴って「~すると、~と同時に」という意味合いがあります。

On leaving the dangerous place, you come to a comfortable field.
(その危険な場所を出れば、気持ちのいい草原になってきます)

このonは物・事の連続的な関係を示すという働きがあります。2つの行為の間にブレイクがないということですね。「接触」のonが使われているため、2つの事柄の連続性が強調されるのです。

それでは次回もお楽しみに。

田中茂範(たなか しげのり)
田中茂範(たなか しげのり)

慶應大学名誉教授。現在は、PEN言語教育サービスの代表として、新指導要領に沿ったオリジナル教材を開発すると同時に、高等学校の英語教育、課題探究コースなどのプログラム開発を手掛ける。教材は50種類を超え、5領域に対応できる体制が整っている。
ブログ:penlanguage.com

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