
英語習得に必要な時間は1000時間である――いろいろなところで言われていることですが、本当にそうなのでしょうか。また、それが本当だとして、とてつもなく長く感じる1000時間を達成するには、何にどのように取り組めばよいのでしょうか。アルクの通信講座「1000時間ヒアリングマラソン」の主任コーチ、松岡昇さんに教えていただきます。
誰にでもある「中級者の壁」
どんな習い事にも「中級者の壁」というのがあります。水泳でもテニスでもピアノでも将棋でも、上達の過程で誰もが突き当たる越えがたい壁です。
皆さんも経験しているかも知れませんが、入門から初級や中級までは、ルールや要領を少しずつ身に付け、練習が成果となって右肩上がりの上達を示す楽しい時期です。
ところが、 中級レベルからさらに上を目指すとなると状況は異なります 。
今までと同じ様に練習しても、目に見える上達がない、次のハードルが越えられない、そして練習方法にあれこれ悩む、そんな時期が訪れます。これが「中級者の壁」です。
中級者の多くはそこで挫折し、結果的に ごく一部の成功者のみが上級レベルの技術を勝ち得る ことになります。
どんなレベルが英語の「中級者」か
英語の場合を考えてみましょう。英語の「中級者」とはどんなレベルでしょう。
最近よく耳にするCEFR( Common European Framework of Reference for Languages/ヨーロッパ言語共通参照枠)には、次の6レベルがあります。
- A1(beginner)
- A2( elementary )
- B1( intermediate )
- B2(upper intermediate )
- C1(advanced)
- C2(proficiency)
CEFRではBレベルを「自立したユーザー」( Independent User)と呼び、「熟達したユーザー」( Proficient User)であるCレベル(TOEIC 945~)の下位に位置します。
GOTCHA!の記事を読んでいる、あるいは、アルクの教材や通信講座で英語を勉強している多くの方が、このB1、B2に属すると思われます。 長年英語を勉強していて、TOEICのスコアも700点、800点と高得点を取るような方 です。
しかし、実際に聞き取りはというと、「生の英語」を一度で正確に聞き取ることは容易でなく、また、話すことも意見を述べるような段階になるともうひとつ自信が持てなく、そのギャップに悩んでいます。
壁を乗り越える鍵は「自動化」

中級者が「熟達した英語使用者」になるため越えなければならない壁は「自動化」です。自動化とは、私たちが母語で自動的に言葉を使っているように、 英語においても自動的に使えるようにすること です。
言い換えれば、今まで以上に速い言語 処理 スピードです。つまり、次のようなことです。
- 速く読める
- 速く(辞書の助けを借りずに)書ける
- 速く(一度で)聞ける
- 速く(流暢に)話せる
例えば 1. では、 TOEICのReading Section で時間が足りないと感じなくなる 、そうしたスピードの「読み」ができるということです。
- の「聞く」では、スピードが速いものも、情報量が多いものも、 繰り返し聞くことをせずに、一度で全容が理解できる ことです。
自動化には1000時間の練習が必要!
結局、「中級者の壁」とは「自動化」であり、「スピード」に慣れることです。
中級に至るまでの学習に比べれば、このステージは極めて単純です。何か新しいことを学ぶのではなく、 ひたすら「慣れる」こと だからです。
しかし、「慣れる」には時間がかかります。最低限1000時間の練習が必要でしょう。「最低限1000時間」というのは、私自身の経験や私が指導してきた学生たちの経験などを通して実感してきたことです。
米国国務省の語学研修プログラムを見ると、日本に派遣される国務省の職員は、赴任前に2200時間の日本語研修が課せられます。日本の中学、高校では英語の授業時間が合わせて約1100時間です。その差を考えると、「最低限1000時間の練習」にはそれなりに 妥当性 があるように思われます。
実はこの1000時間の練習ですが、5年間で1000時間ではあまり意味がありません。 「量」だけでなく、練習の「密度」も考える 必要があります。
3年以内に1000時間が限界

「自動化」ための1000時間という練習量は、「密度」も考えると 「1年間で1000時間」が理想的 です。毎日約3時間、週約20時間です。
「中級者の壁」を越えるには、いつかどこかで腹をくくって、この「1年間で1000時間」を経験する必要があります。一度「自動化」されれば、あとは維持するだけです。これがキツイ人は、密度を下げて1000時間を「週10時間で2年間」で、それでもキツイという人はさらに密度を下げて「週7時間で3年間」で練習します。
英語の「自動化」には、どうもこの辺、つまり 「3年以内に1000時間」が限界 のようです。これよりも密度が下がると、1000時間練習しようとも「自動化」は難しい。
実は、このことは中級レベルに留まっているほとんどの方が経験していることですよね。中級者の壁を越えるには、「地道にコツコツ」ではなく、「一定期間に一気に」が賢明なストラテジーです。
次回は「1,000時間――楽しくなければムリ!」と題してお届けします。では、また!

1000時間ヒアリングマラソン
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松岡 昇(まつおかのぼる)
青山学院大学大学院国際政治経済研究科修了。専門は、国際コミュニケーション、社会言語学。現在、獨協大学、立教大学及び大手企業を中心に講義やセミナーを務める超人気講師。 NPOグローバルヒューマンイノベーション協会理事。アルクの通信講座「1000時間ヒアリングマラソン」の主任コーチ。著書も多数ある。