だまされるな!【オレゴン12カ月】

オレゴン12カ月

渡米して20年以上がたち、現在はオレゴン州ポートランドで暮らす大石洋子さん。家族や身の回りで起こった出来事や季節のイベント、日米文化の違いなどにまつわるお話を現地からお届けします。

夫の携帯電話に、先日こんなメッセージが残っていたそうだ。

「あなたの名前とソーシャルセキュリティーナンバーが犯罪に使われた疑いがあるため、あなたのナンバーは凍結されました。直ちに1-888-952-xxxx に電話してください」

ソーシャルセキュリティーナンバー(SSN、社会保障番号)とは、日本で言うところのマイナンバーである。銀行口座を開いたり、クレジットカードを申し込んだりするときに使う、究極のIDである。

それは大変、とすぐに電話しようとして、いや待てよ、と会社の同僚に相談したら、「それは詐欺」と言われたそうだ。

手口はこうである。その番号に電話すると、あなたのSSNは盗まれました、銀行預金を引き出される前にすべて下ろしてギフトカードに換えておきなさい、と指示される。そしてギフトカードのコードナンバーを聞いてくるのでうっかりそれに答えると・・・お金はすべて盗まれてしまう、というわけ。実は始めから盗まれていなかったSSNは、「確認のため」と聞かれたときについ教えてしまい、お金もSSNも盗られて踏んだり蹴ったりということらしい。

去年はこの手口で3万5000人がだまされ、被害総額は1000 万ドルを超えたそうである。

こんなのに引っ掛かるかなあ、だいたい預金を引き出してギフトカードに換えろってヘンでしょ、と思うが、手が込んでいることに、電話の相手先がSSA(社会保障局)と表示されるそうなのだ。おかしいと訝りつつも、政府機関の指示だし、と従ってしまうのだろう。

似たような手口でよくあるのは、「あなたの税申告に重大な誤りが発見されました。このままではあなたは脱税で逮捕されます」というものだ。政府関係者を装い、「今ならまだ間に合う。申告漏れの額を直ちに送れば大丈夫だから」と急き立ててくるという。

この電話は私も何度か受けたことがあるが、なぜかいつも訛りが強い人ばかりで、英語がひどく聞き取りにくい。外国人の窃盗団なのだろうか。怪しさ倍増で、いくらすごまれても真剣に受け取る気になれないどころか、ほとんどコミカルなのであった。

オレゴン12カ月

イラスト:尾崎仁美

一方では、こんな詐欺の手口もある。海外から、こんな手紙が届くのだ。「Mr. Thomas Oishi が亡くなりました。資産家だった彼には子どもはなく、親戚もなく、遺産相続人を探すのに手間取りましたが、調査の結果、あなたが唯一の血縁であり相続人だということが判明しました。2000万ドルにも上る遺産を相続する意思があることを直ちに連絡してください」

差出人は、その亡くなった人の財産を管理していた弁護士を名乗る人物。エアメールの投函元はイギリスが多いが、アフリカや南米の国のこともある。なんだかエキゾチックな香り漂う詐欺である。誰か引っ掛かる人がいるのかなと思うが、いまだに一年に一度ぐらいの頻度で来るし、最近はE メールでも来るようになった。連絡すると、遺産受け取りのための一時的な費用を支払うように、と言われるのだそうである。

ところで「誰が引っ掛かるのだ?」などと、詐欺についていかにも賢げに書いている私だが、実はアメリカで一度だけ詐欺の被害に遭ったことがある。

1996年のことだ。アメリカに住み始めて3年たったころ。

アトランタで開催される夏のオリンピックを見に行くことにしたのである。インターネットがなかった当時もチケット購入は抽選で、郵便による申し込みであった。

男子バレーボール、野球、ウエイトリフティング、陸上などのチケットが取れて、さて問題は宿である。

ホテルはどこもいっぱいだ。アトランタから相当離れたところに宿を取って、連日、レンタカーで往復するしかないか・・・そう思い始めていたところに、あるカタログが郵送されてきた。

オリンピック期間中にアトランタの自宅を貸す人を募りました、と書かれていた。今でいうところの民泊である。場所や家の広さによって値段はまちまちだったが、法外というほどではない。五輪マークだのアメリカ国旗だのがあちこちに配されたカタログは、公営ではないことはわかったが、うさんくさいようにはちっとも見えなかった。

さっそく申し込んで、オリンピック開幕を楽しみに待っていたある土曜日の午後のこと。FBI(連邦捜査局)から電話がかかってきた。

「アトランタオリンピックに行きますか? 個人の家を貸すというサービスに申し込みましたか?」

本当にFBIかなあ、と眉唾で応対していたところ、

「あなたは詐欺に遭いました。アトランタにはあなた方が泊まるところはありませんよ」と告げられたのであった。

確か5、6 泊で800ドルぐらい(約8万円)を支払っていたと思う。幸いクレジットカードでの支払いだったから、詐欺であることをクレジット会社に説明して、負担は免れた。が、「自分が詐欺に遭った、だまされた」という事実は、ちょっとしたショックであった。

詐欺は、英語ではfraud、scam。詐欺師のことをcon artist とも言う。アートとは言い得て妙である。次々に新たなだまし方を編み出してはわれわれの懐を狙ってくるから、注意が必要である。

アメリカのオレゴン州ってどんなところ?

アメリカ北西部に位置する、全米屈指の美しい景観を誇るオレゴン州。IT、バイオテクノロジー、環境関連産業の成長目覚ましく、ナイキなどのスポーツ・アウトドア企業も多い。州都はセイラム、最大の都市は人口約60万のポートランド。

文:大石洋子
エッセイスト。1993年、夫の海外赴任でアメリカ・ニュージャージー州へ。2003年には異動のためオレゴン州に転居。現在は、日に日に生意気になる16歳の娘に手を焼く傍ら、月に2回、Boiled Eggs Onlineにオレゴンでの生活をつづっている。

本記事は『ENGLISH JOURNAL』2019年10月号に掲載された記事を再編集したものです。