楽しいグッドウィル【オレゴン12カ月】

オレゴン12カ月

渡米して20年以上がたち、現在はオレゴン州ポートランドで暮らす大石洋子さん。家族や身の回りで起こった出来事や季節のイベント、日米文化の違いなどにまつわるお話を現地からお届けします。

先日、友人3人とお茶をしているときに、そのうちの一人がふと、

「今日はこれが終わったらグッドウィルにお鍋を持って行くの」

と言った。するとほかの人たちも口々に、

「あぁグッドウィル、私も行かなくちゃ」

「家のあちこちにグッドウィル行きの袋があるわ」

と言い出した。何を隠そう、私の車のトランクにも、グッドウィルに持って行こうと思っている紙袋がけっこう長いこと入ったままだ。そうだよね、まずは車に乗せないと、いつまでたっても家の中からなくならないよね、などと、ひとしきりグッドウィルの話に花が咲いた。

グッドウィル(Goodwill)は、スリフトショップ(thrift shop)である。スリフトショップとは、リサイクルショップのこと。グッドウィルは、不用品を寄付として受け付ける。家具、キッチン用品、服、靴、おもちゃ、本などさまざまなものを引き取り、それらに値段を付けて売る。

店舗はあちこちにある。数えてみたら、ウチから車で20分圏内に7軒もあった。全米では約3200店あるそうだ。店内は、巨大ガレージセールという感じ。商品はどれも中古だから、もちろん値段は安い。どう考えても売れないでしょというようなものから、状態のいいものまで取り交ぜてざらーっと並んでいる。私も、娘が小さいときには、どうせワンシーズンで着られなくなるから、と冬の防寒ジャケットはグッドウィルで探した。それと、ハロウィンのコスチューム探しでも、毎年のようにお世話になったものだ。ある時には、何げなく服売り場を見ていたら、特大サイズのコーナーに70年代調のサイケっぽいレトロプリントのワンピースを発見。買ったばかりのミシンで、エプロンに作り直したこともあった。

中には、値打ちのあるものが混じっていることもあるそうだ。食器売り場に銀製食器やコレクターズアイテムであるデプレッショングラス(大恐慌時代に作られた色付きガラス食器)があったり、本売り場には高値で売れる初版本が無造作に置かれていたりということもあるらしい。安く買い物したい人だけでなく、転売目的の人も少なからず訪れるようである。

オレゴン12カ月

イラスト:尾崎仁美

グッドウィルに不用品を寄付するのは簡単だ。店の入り口とは別のところに、寄付品受け取り場所がある。そこに持って行くだけ。ウチの場合は着なくなった衣類が多いのだけれど、紙袋にがさっと入れた中身をチェックすることもなく、黙って受け取ってくれる。これはダメ、あれはダメ、などと言われるとやる気がうせるものだが、それを知っているのか、持ち込まれたものはすべて引き受ける。そして、レシートを発行してくれるのだ。

このレシートには、本来は寄付品を受け取った店員が中身を細かく記すべきなのだろうが、たいていは係員のサインだけがしてあって、あとの欄は空白だ。これを持ち帰り、寄付の内容を自分で書き込み(男性Tシャツ3枚、女児スカート2枚など)、グッドウィルのウェブサイトにある寄付品の目安金額を元に、いくらに相当する寄付をしたのかを算出する。4月の確定申告(アメリカでは収入のある人全員が確定申告する)の際にこのレシートを提出すると、その分が課税額から控除される。

グッドウィルは私たちにとっては「毎日ガレージセールの楽しい店」なのだが、実は雇用の面で社会貢献をする非営利団体だ。1902年にボストンの牧師によって始められた。富裕層が住む地域から、不要になった日用品や衣服を集め、働き口のない貧困層を雇ってそれらを修理し、安価に再販売することで貧困層の生活に役立てた。今も、障害者やホームレスなど、働き口が見つけにくい人を雇う。就職に必要な訓練を施して職を与え、自立できるように後押しするのである。

そんな貴い精神のグッドウィルだが、従業員を最低賃金レベルで安く使う一方で上級職の人々には多額の給与が支払われている、という批判がある。各地域の社長23名の平均年収が40万ドル(約4500万円)という報道もある。2005年には、ポートランド地域の社長に83万ドル(約9300万円)もの報酬が支払われていたとかで話題になった。考えてみれば、店で売る商品はすべて寄付だから仕入れ値はゼロ。売上はすべて粗利益という最強のビジネスモデルなのである。もちろん諸経費はあるだろうが、ほかのビジネスに比べたらかなり余裕のはずだ。それが上級職にばかりいって、末端の従業員に還元されていないというのが、折に触れて批判の対象となる。

しかし、そんな批判もどこ吹く風。断捨離ではないが、家の中をスッキリ保ちたい人々が不用品を持ち込んでは税控除の恩恵を受け、そして日用品を安く手に入れたい人々がそれらを買っていく。エコでもあるし、win-win だ。

グッドウィルは、若い人たちにとっては古着屋という位置付けのトレンディな場所だそうだ。高校生の娘は、友達と連れ立ってはグッドウィル詣でを楽しむ。今はやりの80 ~90年代風のレトロな服を見つけると、「Score!(やった!)って感じ」なのだそうである。

アメリカのオレゴン州ってどんなところ?

アメリカ北西部に位置する、全米屈指の美しい景観を誇るオレゴン州。IT、バイオテクノロジー、環境関連産業の成長目覚ましく、ナイキなどのスポーツ・アウトドア企業も多い。州都はセイラム、最大の都市は人口約60万のポートランド。

文:大石洋子
エッセイスト。1993年、夫の海外赴任でアメリカ・ニュージャージー州へ。2003年には異動のためオレゴン州に転居。現在は、日に日に生意気になる16歳の娘に手を焼く傍ら、月に2回、Boiled Eggs Onlineにオレゴンでの生活をつづっている。

本記事は『ENGLISH JOURNAL』2019年7月号に掲載された記事を再編集したものです。