キュウリが入ったイギリス定番の飲み物「ピムズ」って?【LONDON STORIES】

LONDON STORIES

「多文化都市」と呼ばれるイギリスの首都ロンドン。この街で10年以上暮らすライターの宮田華子さんが、日々の雑感や発見をリアルに語ります。

「苦い・甘い・爽やか」が病みつきに!

ロンドンの夏は短いが、爽やかで快適だ。ここ数年は温暖化の影響で30 度を超える日も多くなってはいるものの、8 月でも平均気温は20 度台前半。日本と比較したら「申し訳ない」くらいの涼しさだ。青々と茂る緑は目にまぶしく、半袖シャツから出た腕にさらさらとした風が心地よい。

私は散々日本の熱波を経験してからロンドンに来たので「涼しい夏って最高」と思っているが、イギリス人は「夏が短過ぎる」「もっと暑くてもいいのに」とよく文句を言っている。この辺はないものねだりとしか言いようがないが、長い冬を耐え忍んだ後にやって来る夏だけに、暑苦しいほどの思いがあるのは仕方ない。

天気のいい夏の週末は、できるだけ屋外で過ごすのがイギリス流。週末のパブはいつも混雑しているが、天気がいい日にテラス席をゲットするのは至難の業だ。運よく席を確保できたら、「1 杯目はピムズ(Pimm’s)」という人は多いだろう。

ピムズとは1823 年にジェームス・ピムが開発したリキュール(原液、アルコール度数25%)のことだが、一般的に「ピムズを飲んだ」という場合、ピムズ原液を使って作ったカクテルのことを指す。炭酸飲料で割り、イチゴなどの果物、ミント、そして輪切りのキュウリを入れた、甘くてほろ苦い夏の定番の飲み物だ。

ここで「キュウリ!?」と驚く人は多いかもしれない。イギリスに来て日英の差にびっくりしたことはいろいろあるが、ロンドンで迎えた初めての夏、友人に勧められるままパブでピムズを注文し、中にキュウリが入っていたときの衝撃は忘れられない。

グラスをじっと見つめ、「キュウリが……入ってるみたいなんだけど」と言ってみると、「キュウリが入っていなければピムズじゃないよ」と真顔で答えられた。恐る恐る飲んでみると、意外とこれが悪くない。原液の方のピムズはジンとキニーネ(キナの樹皮エキス)、そしてさまざまなハーブでできたレシピ秘伝の混合酒。原液だけなめると甘くて苦い、ちょっと薬のような味だが、その苦みにキュウリの清涼感がぴったりなのだ。数回飲むうちに「苦い・甘い・爽やか」のコントラストのとりこになった。

イチゴ、オレンジ、ミント、そしてキュウリの入った自家製ピムズ。リンゴやマンゴーなどを入れても美味。

イチゴ、オレンジ、ミント、そしてキュウリの入った自家製ピムズ。リンゴやマンゴーなどを入れても美味。

イギリスのキュウリはサイズが2倍

食べ物にまつわる土地柄・お国柄の話は枚挙にいとまがないが、キュウリも日本とは大きく違うものの一つだ。なんといってもサイズが違う。日本のキュウリの2 倍以上、太め&長めのズッキーニ」という感じだ。切ると中の種部分が多く、水分も多め。表面はつるんとしており、日本のキュウリにある「イボイボ」がない。大きいのでキュウリは1 本ずつ買うものであり、「数本まとめてパック」は存在しない。モロキュウやスティックとして食べるときは、中の種をくりぬいて食べている。

イギリスにおけるキュウリの主な用途は、サラダか飲み物に入れるかのどちらかだ。日本でも最近、おしゃれ系カフェで時々野菜や果物入りのデトックスウォーターを見掛けるが、イギリスでもちょっとお高めのパブやカフェで見掛けることがある。

お店によって中身はさまざまだが、定番はレモン、ミント、そしてキュウリ。輪切りではなく、ピーラーを使って縦に薄くスライスしたキュウリが入っていることが多い。ひらひらと緑色の帯が舞う水は見た目がきれいだし、「なにより、キュウリは水につけておいても濁らないのがいいんだよね」とパブのお兄さんが言っていた。

イギリスでは水道水が普通に飲めるので私自身は普段ミネラルウォーターを買わない派だ。でも誰かを自宅に招いたとき、蛇口からジャーっと入れた水をそのまま出すのは無粋な気もする。そんなときに手っ取り早いのはちぎって入れるだけのミントだが、もうちょっと余裕があるときはキュウリを入れる。すると大した手間でもないのに、もう一品料理したぐらいの「ちゃんとした感」が漂うのでありがたい。

このキュウリ水を作っておくと、その場で簡単にカクテルが作れるのも便利だ。ジンか白ワインで割り、甘みを付けたいときはハチミツを入れる。炭酸水で作ると「スプリッツァ」という名前のある飲み物になるが、普通の水で作ってもまあまあイケる。イギリス人は水にあまり氷を入れないが、この場合は氷を入れた方がおいしく、キュウリの清涼感がグッと増す。これはオーストリア人の元フラットメイトに教えてもらった飲み方だ。

ピムズの原液「Pimm’s」。実は味は6 種類あるが、この「No. 1 Cup」が定番の味。

ピムズの原液「Pimm’s」。実は味は6 種類あるが、この「No. 1 Cup」が定番の味。

具だくさんのピムズをぜひ!

この原稿を書いている6月現在、イギリスはまだロックダウン(都市封鎖)中なのでパブは閉まっている。早くコロナが収束し、パブのテラス席でピムズをキューっと飲みたいが、もうしばらくは家で楽しむことにしよう。

実は家飲みピムズにもよい点がある。それは思いっきり具だくさんで作れること。ピムズはパブによって具材の充実度が異なるが、特にイチゴがたくさん入っていればそれだけ値段も高く、1 杯7 ポンド(約1000 円)ぐらいしてしまう。家で作ればお財布にも優しい。でも、やっぱりピムズはパブで飲みたい!ちょっと浮かれた雰囲気のパブのテラス席で、甘くて苦いカクテルを飲むのは夏の最高の楽しみだから。

イギリスのロンドンってどんなところ?

イギリスの首都ロンドンはイギリス南東部に位置し、さまざまな人種・文化・宗教的背景の人たちが住んでいる「多文化都市」。ビッグベン、大英博物館など観光スポットも満載。

文・写真:宮田華子

ライター/エッセイスト。2002年に渡英。社会&文化をテーマに執筆し、ロンドン&東京で運営するウェブマガジン「matka(マトカ)」でも、一筋縄ではいかないイギリス生活についてつづっている。

※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2020年9月号に掲載された記事を再編集したものです。