通訳者が実践する本番で実力を発揮するための3つのコツ

トーキョー通訳日誌

通訳・翻訳者で、エディ・レッドメインやエド・シーランなどの通訳や英語インタビューも行う川合亮平さんの連載「トーキョー通訳日誌」。川合さんが体験したリアルな通訳現場のお話を通して、通訳者として成長していくための「仕事のやり方」や「英語学習法」などを教えていただきます。第5回では「本番で実力を発揮させるコツ」についてお話します。

こんにちは、川合亮平です。

僕は通訳の仕事って、スポーツととても似ているなと思うんです。

試合開始のホイッスル(または“掛け声”でもいいですが)が鳴ったら、もう後戻りはできない。ミスしようが、厳しい局面に追い込まれようが、とにかく目の前の状況に最善を尽くして対応していく。決まった時間内でプレーは続行していくわけです(途中で選手交代にならない限りは)。

何があろうが、基本的には「Show must go on.」です。

通訳の現場もまさにスポーツの試合と同様に時間不可逆の世界なんです。

「そんな生物(ナマモノ)の現場で最大限のパフォーマンスを発揮するには?」

このクエスチョンは、通訳者の僕にとって非常に大切なものです。

今の所、上記への目下の答えとして自分なりに実践している幾つかの方法があるので、今回はそれらをシェアしたいと思います。基本的には汎用性がある方法だと思っています。

あなたが例えば、

「受験や英検・TOEIC、または定期テストなどの試験で集中力を維持して実力を発揮したい」

「重要なプレゼンの場面で緊張することなくよいパフォーマンスをしたい」

あるいは単純に、

「集中力が持続しないので解決法を知りたい」

などの希望をお持ちであれば、1つくらいは(願わくばそれ以上)「へぇ、早速試してみよう」と思っていただけるようなノウハウが見つかるかも、です。

What to eat and What NOT to eat.(いつ、何を口にするか?何を口にしないか?)

いつ、何を食べるかによって集中力の度合いが変わってくると感じています。

例えば、コーヒーは集中力を高める効果があると実感しているのですが、飲んでからだいたい(研究により多少の前後はあるにせよ)30分前後でカフェインが身体に(脳に)行き渡り、集中力が高まってくるとのこと。

だから、僕は通訳を開始する30分程度前からコーヒーを飲み始めるのを習慣にしています。
また、2、3時間前後(あるいはそれ以上)のまとまった通訳稼働時間が予想される場合、体力と脳力が最後まで走りきれる、つまり集中力を維持できるだけの栄養を補給する必要があります。

だから、

・タンパク質の量を意識したバランスのよい食事を通訳開始時間の3、4時間前(消化にそれくらいの時間がかかるようです)に摂る

・通訳前に小腹が空いたらナッツ類を食べる。そして通訳中の栄養補給としてバナナを携帯する(バナナは消化が早いらしく、すぐに身体と頭のエネルギーになる強い味方です。長丁場の通訳をしているときでも、バナナを食べるとパワーがグーンと回復する実感があります)

といったことをできる限り心掛けています。

あとは何を「口にしない」か 、も大切。

まあこれは、その人の体質によってまちまちだと思いますが、僕の場合、ジャンクフードや、精製食品、砂糖、小麦類が身体に合わないということが42年間生きてきて判明しています。つまり、それらを食べると頭脳が最適化しない(集中力が削がれる)、ということ。

だから、よりよい通訳のパフォーマンスをするため、上記の食品は常日頃から控えています。

僕は数年前まで「砂糖が頭の働きに良い影響をもたらす」と信じ込んでいて、結構な量の糖分(チョコレートなど)を摂取していたんですが、実は僕にとって砂糖は体調にも頭脳にもあんまりよい影響を与えていなかった、というのが今行き着いている自分なりの事実です。なんでもトライアル&エラーですね。

結果的になんだか健康マニアみたいになっていますが、とにかく1mmでもよい通訳パフォーマンスをしたいという切実な想いがあればこそです。

カップ麺とピザとチョコレートをたらふく食べても、日々快調な身体と頭を保てるなら、 食いしん坊の僕は間違いなくそうするでしょうが、残念ながら現実はそうじゃないので仕方ないですね。

How you present yourself.(たかが見た目、されど見た目)

もしあなたが女性ならより共感していただけるかもしれません。

ヘアスタイルや洋服、アクセサリー、お化粧(僕はしませんが)によって、気持ちが乗ったり、または逆に乗らなかったり、ということはないでしょうか?

僕はあります(お化粧はしませんが)。

そして、“気持ちが乗る”という精神状態は目には見えないけど、やる気や集中力にすごく影響してくると実感しているのです。

そんなわけで、通訳の現場では僕は身だしなみにとても気を付けています。柔らかい表現をすると、“カッコつけてる”と言い替えてもよいと思います。

見た目に気を配る結果として、周りの人々にプロフェッショナルな印象を与えられるかどうか、というのもものすごく大切な要素だけど、それと同時に自分自身が“乗って”パフォーマンスできるか、というのも仕事の成果に直接関係してくる超重要ポイントなのです。

Have a rest! (休もう!)

無限のエネルギーがあればいいんだけど、普通の人のエネルギーは有限です。

個人差はあると思いますが、1日に使える集中力や体力・そして思考力の総量は概ね決まっていると思うし、中・長期的にみて、じりじりと知らず知らずのうちに消耗してくる、という肉体的・精神的現象があるとも実感しています。

通訳の現場では、僕が手持ちの1日分の集中力や思考力をそこですべて出し切りたいと思っているし 、また、そのような集中力が発揮できるように、身体の全般的な調子もより長期的な時間軸の上で整えておきたい、と思っています。

だから、通訳がある日、例えば、15時から18時まである場合だと、急ぎの仕事や用事がない限り、その日は15時前まではできるだけダラダラします。まあ、力を温存する、ということですね。肉体トレーニングをすることはありますが、集中力・思考力を要するような活動はできるだけ避けます

惰性でスマホを眺め、ネットサーフィンしたりするのは、頭脳エネルギーの消耗度が意外にばかにならないので、これらには特に気を付けています。

同時に、よりマクロの視点から見て、日々の疲れをためないために、習慣化している朝の勉強や身体トレーニングには、1週間で1回、のような感じで“今日は何もしないぞ”という休息日を必ず設けるようにしています。

細かい調整は日々、自分の身体と頭の状態との相談ですね。

日々の勉強やトレーニングに関しては、疲労がたまってくると効率も悪くなり、過ぎたるは及ばざるが如し、ですが、どこまでがやり過ぎで、どこまでが適切な負荷なのか、それは自分にしかわからない本当に微妙なラインです。

そこを見極めたいといつも思っているんですが、うまくいくこともあるし、そうでない場合もあります。

理想は「身体と頭脳が疲労する前に休む」です。

本番の心構えは・・・

あなたにとって、「このやり方は使えそうだな」と思うようなアイデアは上記にありましたでしょうか?

本番で集中力を発揮するための日々の工夫を紹介したわけですが、じゃあ、いざ本番中はどのような心構えで過ごしているのかを最後に書いて今回のコラムを締めたいと思います。

僕は通訳の現場では、自分を“通訳マシーン化”するのがいちばん実力が発揮できると実感しています。

過去も未来もしがらみも感情も何も持たない、ただただ日本語を英語へ、そして英語を日本語へ変換するマシーンに自分をトランスフォームするのです。

その現場にいる人たちからはあるいは「あの通訳からは人間的な温かみがまったく感じられないなぁ」というような感想を抱かれていないとも限りませんので、“自分マシーン化”が必ずしもよい方法なのかどうかということは一概には言えません。

ただこれも「とにかく最高のパフォーマンスを」という欲望があって出てきた解決策なので、今後も当面は、血も涙もない必殺仕事人で貫いていくつもりです。(あくまで、その現場内限定で、ということを念のため強調しておきます)

あなたも試験を受ける際は、解答マシーン、プレゼンをする際は、プレゼンマシーンにトランスフォームしてみるのはいかがでしょうか?

川合亮平でした。

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川合亮平

文:川合亮平(かわい・りょうへい)
通訳者。エディ・レッドメイン、ベネディクト・カンバーバッチ、マーティン・フリーマン、エド・シーランなど、俳優・ミュージシャンの通訳・インタビューを多数手掛ける。関西のテレビ番組で紹介され、累計1万部を突破した『「なんでやねん」を英語で言えますか?』(KADOKAWA)をはじめ、著書・翻訳書・監修書は現在11冊。

イギリス関連の記事:https://www.british-made.jp/author/kawai