アメリカの人種差別問題で今、何が起こっているのか?「Black Lives Matter(黒人の命は重要だ)」

アメリカ

アメリカで黒人男性が白人警察官に喉を押さえ付けられて亡くなった事件をきっかけに、根強い人種差別に対する抗議が国内外で行われています。何が起こっているのか、完全に把握したり理解したりすることは難しいですが、少しでも知るために、報道やSNSでの動きを調べました。

黒人男性が白人警察官に押さえ付けられた事件

2020年5月25日、アメリカ合衆国ミネソタ州ミネアポリスで、46歳の黒人男性、ジョージ・フロイド(George Floyd)氏が、白人の警察官に喉を押さえつけられて亡くなる事件がありました。フロイド氏は、偽造紙幣でたばこを購入しようとした疑いで、街中で警察官に拘束されているところだったということです。

8分46秒間、警察官の膝で喉を押さえ付けられていたフロイド氏はその間、「I can’t breathe.(息ができない)」と言い続けていましたが、警察官の膝が緩められることはありませんでした。

その一部始終を周囲にいた人が撮影した動画がインターネットで拡散し、警察官の行為に対する批判が高まりました。

それを受け、フロイド氏の喉を押さえ付けた警察官は解雇され、その後、訴追もされて、容疑は第2級殺人となりました。続けて、同僚だった3人も訴追されました。

fire ~を解雇する

former police officer 元警察官

charge ~を訴追する

second-degree murder 第2級殺人 ※故意だが計画的ではない殺人

aiding and abetting second-degree murder 第2級殺人の教唆・ほう助

CNNのサイトでは、フロイド氏の家族や友人などの声から、同氏の人柄や人生が伝えられています。

edition.cnn.com

フロイド氏は強盗などの罪で服役していたことなども報道されています。ただ、どんな人も、このような形で亡くなることは許されないでしょう。

nypost.com

デモやSNSで掲げられる「Black Lives Matter

警察官の解雇、訴追後も、人種差別に反対する人々の抗議デモやSNSでの意見表明が行われ、その動きはアメリカ国外にも広がっています。

racism 人種差別

racialized society 人種で区別・差別される社会

protest 抗議(デモ)、抗議する

demonstrator デモ参加者

デモやSNS(ソーシャルメディア)で掲げられているのが、「Black Lives Matter(黒人の命は重要だ)」や「I can’t breathe.(息ができない)」といった言葉です。これらは、類似の事件がこれまでにもずっとあった中で以前から言われていたもので、状況がほとんど変わっていないことを物語っています。

blacklivesmatter.com

edition.cnn.com

www.heraldonline.com

英語の文法としては、「Black Lives Matter」は、Black Livesが形容詞+名詞で主語、 Matterが動詞で述語です。下の画像では、Livesの部分に「子どもたち」「愛」「未来」が入っていて、複数形ではないLOVEでは、動詞に三単現のsが付いてMATTERSとなっています。

 
 
 
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I WANT THINGS TO BE DIFFERENT

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著名人もSNSなどに、この問題について投稿しています。

上でも投稿を引用した、アメリカのシンガーソングライター、ビリー・アイリッシュ(Billie Eilish)氏のInstagramでの次の投稿などは、日本のメディアにも取り上げられました。

文章の画像を掲載したこの投稿でアイリッシュ氏は、「Black Lives Matter」の運動に対して、白人などの側から「White Lives Matter(白人の命も大切だ)」「All Lives Matter(すべての命が大切だ)」という言葉を返されることがあるのを、痛烈に批判しています。

 
 
 
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#justiceforgeorgefloyd #blacklivesmatter

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「White/All Lives Matter」という言葉は、そもそもなぜわざわざ「Black Lives Matter」と主張しなければならない状況にあるのかを無視した見当違いな「反論」だと思いますが、アイリッシュ氏の主張に見られる、「なんでも自分のことにしてしまって、問題をすり替える」ことへの批判は、非常に示唆に富むと思います。

さまざまな問題提起に対して、「自分/〇〇も大変なんだ」「つらいのはみんな同じだ」といった言葉が投げ掛けられることがありますが、今、問題になっているのはそのことではないんだけどな、どうしてすぐ自分(たち)の話にしたがるのかな、と(自戒も込めて)いつも思います。

母親が日本人、父親がハイチ系アメリカ人の、世界的なテニス選手である大坂なおみ氏も、今回の件についてTwitterなどで発信しています。

なお、一時期は「黒人」ではなく「アフリカ系」を使おうと言われていたこともあったかと思いますが、現在では、黒人のことを述べているなら「Black」と大文字始まりで書こう、という考え方があるようです。

大文字始まりにするのは、ろう者の文化やコミュニティーを表現するときに「Deaf」と大文字にするのと似ているのでしょうか。

下のツイートには、「Latinoも大文字始まりで書いている」というリプライもあります。

capitalize ~を大文字始まりで書く、~をすべて大文字で書く

真っ黒な画像を投稿する「#BlackOutTuesday」には批判も

また、InstagramやTwitterでは6月2日(火)に多くの人が、真っ黒の画像に、ハッシュタグ「#BlackOutTuesday」「#TheShowMustBePaused」を付けた投稿をしています。

これは音楽業界が呼び掛けたストライキに関連したもので、そのことを示すために「#TheShowMustBePaused」というハッシュタグを設定したようです。

しかし、「#BlackLivesMatter」のハッシュタグも一緒に付ける人が多かったため、このハッシュタグで検索しても、真っ黒な画像の投稿で埋め尽くされてしまい、重要な情報が埋もれてしまう、という批判も出ました。

そのため、「#BlackOutTuesday」の投稿には、「#BlackLivesMatter」のハッシュタグは付けないようにという呼び掛けも行われたようです。

www.theguardian.com

japan.cnet.com

Instagram blackout ※直訳は「Instagramでの停電」

online demonstration ネット上でのデモ

armchair activism/activist ※意見を書くなどするだけで、実現するために行動することはしない「活動」「活動家」を揶揄(やゆ)する言葉。*1 armchairは「肘掛け椅子」だが、armchair criticarmchair travel(l)erなどの表現で、「口先だけの」「実践しない」という意味がある。*2

アメリカの警察官にまつわる問題

また、人種差別の問題に加えて、アメリカでは警察官への不信感も、もともとあると指摘している『ニューズウィーク日本版』のウェブ記事もありました。

その記事で、「ミネアポリスの暴動でも、白人の若者たちが店を襲撃しているのを黒人が止めている事実が記録されている。なのに、警官が到着したときには、その場にいた黒人たちが濡れ衣を着せられる。」*3という記述を読んで、マドンナが1989年にリリースした「Like a Prayer(ライク・ア・プレイヤー)」のMV*4を連想しました。

www.newsweekjapan.jp

アラスカ州内の地域の一部で警察官が配置されず、無法地帯になっている実態などを暴いた、同州の地方紙『アンカレッジ・デイリー・ニュース』の連載「無法(Lawless)」が、今年5月にピュリツァー賞を受賞したのも、記憶に新しいです。*5*6

police brutality 警察の残酷な行為

なお、フロイド氏の事件を受けて、警察官が腕などで首を絞める行為を禁止しようとする動きがミネアポリスなどで出てきています。つまり、この事件では不適切でしたが、場合によってはこの「チョークホールド」は警察官の行為として認められているのですね。

しかし、された方が死ぬこともあるこの行為は、今後は見直す動きが広がるかもしれません。

(チョークホールドについて2020年6月7日に追記)

chokehold 首絞め

www.nbcnews.com

トランプ大統領の言動とそれに対する批判

今回の事件を発端に、アメリカでは一部で暴動も起き、夜間外出禁止令が出されました。1992年のロサンゼルス暴動以来の事態だとも報道されています。警察は催眠ガスやゴム弾も使っているそうです。

riot(s) 暴動

curfew (夜間)外出禁止令

tear gas 催涙ガス

rubber bullet(s) ゴム弾

https://www.washingtonpost.com/nation/2020/05/30/george-floyd-protests-live-updates/(2020年6月6日閲覧)

しかし暴動は一部であって、多くの人々は、地面に片膝をついてじっとしているなど、平和的なデモを行っているようです。

take a knee 片膝をつく

www.npr.org

片膝をついて人種差別への抗議を示すのは、アメリカンフットボール選手のコリン・キャパニック氏が2016年に行った行為に基づくようです。同氏は、当時の警察による黒人への暴力に対する抗議を示すため、試合での国歌斉唱の際に起立せず、代わりに片膝をつく姿勢を取り、賛否両論が巻き起こりました。

edition.cnn.com

www.bbc.com

平和的なデモが多いにもかかわらず、トランプ大統領は、暴動鎮圧のために発砲する、軍を投入するなどとTwitterに投稿し、「対立をあおっている」という批判を受けています。Twitter社がその投稿に対して「暴力を賛美」するとして警告を表示させ、クリックしないと見えないよう対処したことも大きく報道されました。

www.bbc.com

www.bbc.com

その後もトランプ氏は、平和的なデモを警察官たちが強制的に排除した直後に、その場所で聖書を手に記念撮影をするなどして、批判されています。

edition.cnn.com

www.theguardian.com

差別されている側のことを想像することはできるのか

SNSで拡散されていた、主に白人女性たちが、抗議する黒人たちと警察官たちの間に立ち、警察官たちをけん制していた写真。これは、白人女性たちが自分たちの「特権」を、特権を持たない人々のために声を上げるのに「利用」した行動でした。

www.facebook.com

privilege 特権

自分と立場が違う人のことを本当に「理解」するのは難しいですが、理解しようと「想像」することはできるのかもしれません。そのことを改めて考えさせてくれたのが、SNSで見た、この動画でした。

私はアジア系として、白人がマイノリティーの国・地域にいるときには、平静を装いながらも常に緊張しています。また、日本でも人に失礼な態度を取らないよう注意はしていますが、ヨーロッパなどでは、無用な注目を集めないよう、音を立てないなどの食事マナーにも気を付けていますし、無礼な印象を与えないよう、店員には笑顔でお礼を言い、ホテルスタッフにはできるだけ自分からあいさつすることを心掛けています。本人が無自覚な場合もありますが、差別意識を持ち、それを言動に表す人もゼロではないからです。(それはもちろん日本にも存在する問題でもあります)

しかし、(欧米の基準で考えると)小柄なアジア系女性が、外を歩いていて突然、警察官に職務質問されるということは、国・地域によって違うとは思いますが、私がこれまで行った国では少ないように感じていました。(ただ、新型コロナウイルス感染症の事態になってからは、アジア系へのヘイトクライムが増えているとの報道があります)

以前から、黒人の人たちはもっと違う種類の恐怖感を、自分の国であっても常に抱いていることもあるのだろうかと考えてはいましたが、現在の状況を、間接的にですが見聞きして、底知れない深刻さを感じています。

前述のように、すぐに自分の問題に引き付けて、本来の問題を見失うということのないよう十分に注意しなければなりませんが、自分の経験や感情を手掛かりに相手のことを考えることはしてもいいのではないかと思います。

(しかし例えば私の場合、ある程度、継続的に会話したことがある黒人の方は2人だけですし、黒人が多く住む地域に行ったこともありません。このように、個人の体験は非常に限られることも事実です)

オバマ前大統領が動画で若者たちに呼び掛け

バラク・オバマ(Barack Obama)前大統領はこの一連の状況について、動画でも発言しました。

自身が大統領を務めていたときのスローガンだった「change(変革)」という言葉を使って、特に若者に向けて「希望」を呼び掛けています。

15分近くあり、やや疲れたふうでもありますが、最後などで少しほほ笑みを見せています。

オバマ氏も投票によって行動を起こすことに言及しているように、今年、2020年には大統領選挙が行われる予定で、トランプ氏が再選されるかどうかに注目が集まっています。

日本でも差別による不当な行為に抗議するデモが行われる

日本でも、人種差別や外国人差別に抗議するデモが行われています。

6月6日には東京・渋谷でデモが行われ、英語メディアでもその様子が「Black Lives Matter」の運動の一つとして伝えられました。

このデモは、その前に渋谷区で、定住者ビザを保持するトルコ出身のクルド人男性が、警察官によって地面に引き倒され、首を押さえ付けられるなどして負傷した事件と関連しています。その様子は男性の友人が動画で撮影していて、5月30日にも抗議デモが行われていました。

(2020年6月7日に追記)

www.businessinsider.com

mainichi.jp

引き続き状況を注視し、自分には(どんなに小さなことであっても)何ができるのかを考えて、実行していきたいです。

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ej.alc.co.jp

Irene

文:Irene
自分もarmchairに座っているだけではないか、と思いながら、せめて報道などで情報に触れようと、もがいています。

トップ画像:Photo by Gabriel Peter from Pexels