立証不可能な冤罪に挑む、奇跡の実話【FILMOSCOPE】

FLIMOSCOPE【2020年4月号】

気になる新作映画について登場人物の心理や英米文化事情と共に長谷川町蔵さんが解説します。

今月の1本

『黒い司法 0%からの奇跡』(原題:Just Mercy)を紹介します。

黒人差別が根強い1980 年代アラバマ州。ウォルターは身に覚えのない白人女性の殺人容疑をかけられ、死刑判決を受けてしまう。それを助けるため、ブライアン弁護士はウォルターの無実を証明するべくその弁護を買って出る。彼らは白人の陪審員や証人たちの黒人への差別と不正に対し、「真の正義」を求めて闘いを挑むが……。

絶望的な闘いに挑む黒人弁護士

「アラバマ物語記念館にはもう行ったのか?」本作の主人公である黒人弁護士ブライアンは、舞台であるアラバマ州モンロー郡にやって来るなり、地元に住む白人たちからこう聞かれる。『アラバマ物語』(原題:To Kill a Mockingbird [物まね鳥を殺すのは])とは、アラバマで生まれて2016年に亡くなるまで住んでいた白人女性作家ハーパー・リーが1960年に発表した小説のタイトルだ。

同作の主人公は、地元の白人弁護士アティカス。強姦罪で逮捕された貧しい黒人トムの弁護を買って出た彼は、数々の証拠からトムが冤罪であることを明らかにする。しかし白人ばかりの陪審員たちは有罪の判決を下し、物語は悲劇的な結末を迎えてしまうのだ。

1961年にピュリツァー賞を受賞したこの小説は、翌年にグレゴリー・ペック主演で映画化されて大ヒット。白人の差別意識に変革を促し、人種差別を禁じた公民権の成立に決定的な影響を与えたとされている。そんな小説が地元で生まれたことを誇りに思っている住民の姿から、てっきり今ではモンロー郡は人種差別とは無縁のエリアになっているかと思いきや、実態は真逆。

白人少女の殺害容疑で逮捕された黒人ウォルターは、無数のアリバイがあるにもかかわらず白人受刑囚のたった一つの曖昧な証言だけで、死刑を宣告されてしまっている。『アラバマ物語』で告発された問題と、それとそっくりな現実は、地元民にとってはあくまで別モノだったのだ。

こうした事実を知ったブライアンは、アティカスのような絶望的な闘いに身を投じることになる。驚かされるのは本作が80年代に起きた実話で、現実のブライアンがこうした差別と今なお闘い続けているということ。そんな彼の姿勢に共鳴してプロデューサーに就任したばかりか、ブロックバスター大作への出演の合間を縫って自らブライアン役を演じたマイケル・B・ジョーダンの勇気に拍手を送りたい。*1

『黒い司法 0%からの奇跡』(原題:Just Mercy)

『黒い司法 0%からの奇跡』

(C)2020 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved.

Cast & Staff 監督:デスティン・ダニエル・クレットン/出演:マイケル・B・ジョーダン、ジェイミー・フォックス、ブリー・ラーソンほか/2月28日(金)全国公開中/配給:ワーナー・ブラザース映画

文:長谷川町蔵(はせがわ・まちぞう)

ライター&コラムニスト。著書に『あたしたちの未来はきっと』(タバブックス)、『インナー・シティ・ブルース』(スペースシャワーブックス)、『文化系のためのヒップホップ入門3』(アルテスパブリッシング)など。

編集:ENGLISH JOURNAL編集部

※本記事は『ENGLISH JOURNAL』2020年4月号に掲載された記事を再編集したものです。

*1:ブロックバスター大作:blockbuster は「大ヒット、大作」の意味で、「巨額の製作費などを投入した超大作映画」を指す。