関係代名詞の目的格whomではなく、whoを使うのはどんなとき?

英語を学ぶ際、「who」と「whom」の使い分けに迷うことはよくある問題です。特に、「whom」の使用が減少している現代英語では、目的格の「who」の適切な使い方が気になる方も多いでしょう。この記事では、関係代名詞としての「who」と「whom」の違いを明確にし、その一般的な使われ方や、なぜ「whom」が徐々に使われなくなってきたのかについて詳しく解説します。『総合英語Forest』編集・共著者である英文法のエキスパート、鈴木希明さんにお話しいただきます。

疑問詞や関係代名詞のwhomはwhoで代用すればラク!

2020年といえば、アメリカのトランプ前大統領の再選がなるかどうかに 、大きな注目が集まりました。

さて、大きな選挙のときには出口調査が行われます。これは、投票所から出てきた人に次のように尋ねる調査です。

Who did you vote for?
誰に投票しましたか?

簡単な疑問文ですね。でも、ちょっと待ってください。「トランプに投票する」はvote for Trumpですから、この疑問文の疑問詞whoはforの目的語ということになります。ということは、whoの目的格whomを使って、次のようにしなければならないのではないでしょうか?

Whom did you vote for?

今回は、whoとwhomの使い方を確認しながら、whomに関する疑問を解決することにしましょう。

会話でwhomを使うことはほとんどない

疑問詞のうち、疑問代名詞にはwhoの他にwhatとwhichがありますが、whatとwhichは主格でも目的格でも形は変わりません。

What happened?
何があったの?

What did you do?
何をしたの?

Which did you choose?
どれを選んだの?

疑問詞を使う疑問文は、疑問詞で文を始めるのが基本です。そうすることによって、何を尋ねるのかを真っ先に伝えることができますが、whoを使うときだけは主格なのか目的格なのかを最初に判断しなければなりません。次第に、文法をきちんと意識してwhomを使うのは「堅苦しい」と思われるようになり、「whoにすればラクじゃん」となったのです。
 
それに、英語の語順は「主語+動詞」が基本ですから、目的格のwhomで文が始まることに違和感を覚える人も多かったのでしょう。「誰が」と「誰に[を]」を区別するよりも、「誰?」という感覚でwhoを使うようになりました。

目的格のwhomの代わりにwhoを使うようになったのは、最近のことではありません。15世紀の中頃には目的格としてのwhoの使用が見られるようになり、17世紀には目的格でwhoを使うことが標準になっています。その後は文法的な正しさを求める動きもあってwhomが巻き返した時期もありましたが、現代英語では目的格でもwhoを使う場合がほとんどという状況です。

前置詞のあとではwhomを使う

しかし、「whomはもう使わない」というわけではありません。例えば、「出口調査(an exit poll」について次のように説明することがあります。

An exit poll asks for whom the voter actually voted.
出口調査では、実際に誰に投票したのかを投票者に尋ねます。

前置詞を疑問詞の前に持ってきて、for whomとするのです。疑問文でも、次のようにすることができます。

For whom did you vote?

前置詞の後ですから「ここはしっかり目的格のwhomを使わないと」という意識が働くわけです。そもそも、前置詞の後ならwhoかwhomで迷うことはありません。でも、for whomってちょっと堅苦しいですね。会話では、前置詞の後でもFor who?みたいにすることもあるようです。

関係代名詞のwhomも会話では使われない

関係代名詞の場合も疑問代名詞と同じで、本来はwhomを使うべきところでもwhoを使います。

The person who I met last night was very kind.
昨夜会った人は、とても親切でした。

ここでthe person whom I metと文法的に正しくすると、堅苦しい感じがします。そこで、関係代名詞の場合はwhomを避けるために次のようにも表現します。

The person I met last night was very kind.
The person that I met last night was very kind.

目的格の関係代名詞は省略して、先行詞となる名詞に「主語+動詞」を直接続けることができます。これが最も一般的です。また、whomの代わりにthatを使うこともできます。thatは先行詞が人でも使うことができるのです。これなら、whoとwhomで迷わなくて済みます。

関係代名詞が前置詞の目的語になることもありますが、疑問代名詞の場合と同様、前置詞を後ろに回してwhoを使うか、または関係代名詞を省略するのが一般的です。

The person with whom I spoke was very kind.
The person who I spoke with was very kind.
The person I spoke with was very kind.

話し言葉で関係代名詞のwhomを使うことはあまりありませんが、書き言葉では文法通りにwhomを使うこともあります。特にフォーマルな文書では、目的格にはwhomを使うことが求められます。

まとめ:会話ではwhomではなくwhoでOK!

疑問代名詞も関係代名詞も、whomは日常会話からはほぼ姿を消しているようです。前置詞に続ける場合以外は、主格や目的格という文法を気にせずに、whoを使うようにすればラクですね。

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鈴木希明(すずき のりあき)
鈴木希明(すずき のりあき)

英語教材編著者。東洋大学、武蔵野大学非常勤講師。立教大学大学院異文化コミュニケーション研究科修士課程修了。研究テーマは認知文法と英文法教育。『総合英語be』など著書多数。文部科学省検定済教科書『be English Expression』編集委員。

※この記事は、『学校では教えてくれない!英文法の新常識』(NHK出版)の内容に加筆・修正して再構成したものです。

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