習ったはずなのにすっかり忘れてしまった英文法。わが子が英語の宿題を持ってきたとき、どう付き合えばいいのでしょうか。大丈夫です!英文法を「子どもにも説明しやすいようにわかりやすく」復習するこの連載におまかせください。今回は「受動態」です。
目次
まずはクイズに挑戦!
今回もクイズからスタートです。3問ありますので、考えてみてください。
Q1.
次の英文は「英語が多くの国で話されている」ことを伝えようとしていますが、どこか不自然なところがあります。一体、どう直せばいいでしょうか。
English is spoken in many countries by people.
Q2.
Q3.
fortune cookie(おみくじクッキー)を開けると、次のメッセージが出てきました。このメッセージは、何を意味しているでしょうか?
A liar is not believed even though he tells the truth.
今回のテーマは「受動態」
「受動態」って何だっけ?
物事のとらえかたは人それぞれで、同じ場面を見たとしても、印象がずいぶん変わることがあります。
もし、ネズミとネコが前後に並んで走っているのを見たとしたら、あなたはその場面をどのように表現するでしょうか。ネコを中心に考えれば、ネコがネズミを「追いかけている」ことになりますが、当然、ネズミにしてみればネコに「追いかけられている」とも言えます。
同じ場面なのに、何を中心に見ているかで「する」のか「される」のか立場が変わってくるなんて、とても面白いですね。英語では、この「~される」にあたる表現を「受動態」や「受け身」といいます。
受動態を使って「ネコに追いかけられた」、「お兄ちゃんにケーキを食べられた」、「窓ガラスが割られた」などと言うと、なんだか「被害者目線」の表現に感じてしまうかもしれませんが、実はそうではないこともあります。
例えば、「隠し味にチョコが使われています」と誰かに教えてもらったときにはどうでしょう。さすがにチョコがかわいそうだとは感じることはなく、むしろ、物事を客観的に説明していると言えますね。
今回は、被害を伝えたり、客観的に説明したりとさまざまな役割を持つ「受動態」について考えていくことにしましょう。
happyやgoodと一緒?
みなさんは、動詞の変化をひたすら覚えた記憶はありますか。「eat - ate - eaten、break - broke - broken、give - gave - given...」とひたすら呪文のように唱えた3番目の形、これを「過去分詞形」というのでした。そして、この過去分詞形が「~される」という意味を表すときに活躍します。
過去分詞形は、基本的にはclean(きれいな)や bad(悪い)といった形容詞と同様、名詞にくっついて説明を加える形です。そのため、clean window(きれいな窓)と同じように、broken windowは「壊された窓」や「壊れた窓」を表すことができます。ところが、これでは「窓が壊された」という文にはならないので、is、am、areなどのbe動詞と一緒に使って表現することになります。
The window was clean yesterday.
その窓は昨日はきれいでしたよ。
The window was broken yesterday.
その窓は昨日壊されてしまったんですよ。
過去分詞形は形容詞と同じようなものと捉えてよいので、現在や過去といった時制を変えるときには、be動詞をisやwasなどに変えるだけで大丈夫です。
そもそも過去分詞形を覚えるのがツラいという方は、自分が使いそうな動詞の変化を少しずつ増やしていくところから始めましょう。もちろん、不規則に変化しない動詞だってあります。そのときは、過去形と同じで-edを付けるだけですから、簡単で安心ですね。
「誰によってされたのか」を書くか? 書かないか?
誰にされたの?
This book was written.(この本は書かれました)とだけ言われても、本が書かれてできるのは当たり前なので、これだけでは何を伝えたいのかよくわかりません。しかし、「いつ」、「どこで」書かれたのかなど、本の情報を付け加えたりするとしっかりとした文になりそうです。例えば、Ten years ago, this book was written in the US.(10年前、この本はアメリカで書かれました)などと伝えれば、自分の好きな本を友人などに紹介することもできますね。
他にも、「誰によって書かれたのか」を伝えたいのであれば、by ~(~によって)を使って、This book was written by Stephen King.(この本はスティーヴン・キングによって書かれたものです)と言うこともできます。
この「誰によってされたのか」を表わすbyは、学校では受動態とセットで使うように習うことが多いのですが、実は、一緒に使うことは案外少なかったりします。というのも、byを無理に使うとかえって変な意味になることもあるからです。
冒頭のQ1.で考えてみましょう。
Q1.
次の英文は「英語が多くの国で話されている」ことを伝えようとしていますが、どこか不自然なところがあります。一体、どう直せばいいのでしょうか。
English is spoken in many countries by people.
英語を話すのが普通は誰なのかを考えれば、いらない理由がわかりそうです。
ここで大切なのは、常識的なことは「あえて言わない」ということです。英語などの言語は、人が話すものです。もしも、動物や植物がお話できるのという設定のアニメなどであるなら、「実はね、この英語という言語は『人間』に話されているんだよ」と言うこともあるかもしれませんが、これは本当に限定的な状況です。日本語でもそうですが、無駄に情報を加えずに、誰にされたのかどうしても伝えたいときだけbyを使うようにしましょう。
また、受動態は、誰が行なっていることなのかを隠すことがことできるため、客観的な説明をするときに役立ちます。We use water in many ways.(わたしたちはいろいろなことに水を使います)と言うよりも、Water is used in many ways.(水はいろいろなことに使われています)の方が、一般的なことや客観的な考えを話しているように感じませんか。
そもそも、受動態にはbyを付けにくいことが多くあります。試しに This car was made in Japan.(この車は日本製です)に、byを使って誰に作られたかを付け加えてみましょう。一体、どんな答えが考えられるでしょうか。by people(人によって)、by a company(とある企業によって)など答えはたくさんありそうですが、どれも当てはまりそうで1つに絞れそうにありません。このように判断に迷うときにも、受動態であれば誰がやったのかをあえて隠すことができるのです。
誰がしたのかを隠す?
誰がやったのか判断がつけられないときだけでなく、実際にはやった人物がわかっていたとしても、隠したくなるときがあります。それは、自分が失敗をしてしまったときです。
The letter was accidentally thrown away...
その手紙はうっかり捨てられちゃったみたい……。
このような場面で受動態を使うと、自分ではなく「誰かにされた」という被害感を演出できるので、ごまかしたり言い訳したりすることができてしまいます。本当は、Sorry, I accidentally threw away the letter...(すみません、その手紙を捨てたのは僕です……)と正直に言えればいいのかもしれませんが、みんながみんな、そんなに強い心を持っているわけではありません。こういうときにも、受動態はあなたの強い味方になるのです。
Q1.の答え
by people を取れば、自然な英文になります(English is spoken in many countries.)。
一般的に、英語は「人」によって話されるのが普通です。そのため、ここであえて by people という語を加えてしまうと、「動物じゃなくて、人間に話されてるのよ」と、ちょっと不思議な意味にとられてしまう可能性があります。当たり前のことを付け加える必要はないのです。
Q2.の答え
①の Taro likes soccer.(タロウはサッカーが好き)は、like(好き)の標準的な使い方で、とても自然です。一方、likeを受動態で使っている②の Soccer is liked by Taro.(サッカーはタロウに好かれている)は、サッカーがタロウだけから好かれているような印象を与えてしまいます。サッカーが好きな人はタロウ以外にもたくさんいるはずですから、英文として不適切と言えます。
like は、Soccer is liked by boys.(サッカーは男の子から人気だ)のように、人物を特定しなければ受動態でも使うことはできますが、どんな文でも受動態にできるわけではないことを覚えておきましょう。
Q3.の答え
ウソつきは本当のことを言っても信じてもらえない。
is not believed(信じてもらえない)の部分が受動態になっていますね。過去分詞は形容詞のように使うので、is notで否定文にすることができます。ウソつきが男の人とは限りませんが、ここでの he は a liar(ウソつき)を指しています。非常に身にしみる教訓です。
ところで、誰に信じてもらえないかは、書かれていなくてもみなさんにはわかりますよね。
まとめ
過去形のときもそうでしたが、不規則変化を覚えるのを恐れて「〜する」の形だけでやりくりしようとすると、表現が単調になったり、ときには英語でうまく伝えられなかったりすることもあります。受動態は、話の視点を変えたり、客観性を持たせたりと、表現を豊かにしてくれます。覚えるのは大変ですが、少しずつ頑張りましょう。
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文:大竹保幹(おおたけ やすまさ)
神奈川県立厚木高等学校教諭。1984年横浜市生まれ。明治大学文学部文学科卒業。平成23年度神奈川県優秀授業実践教員(第2部門)表彰。文部科学省委託事業英語教育推進リーダー。趣味は読書。好きな作家はスティーブン・キング。
編集:美野貴美