約四半世紀ぶりに生まれ変わる 日本人の英語学習者のための単語リスト「SVL」【Vol.1】

長年蓄積してきた膨大な英文データや、英米の大規模コーパスをもとに作成されたアルクのデータベース「SVL12000」。その発表から20数年──技術の進歩やビジネス環境の変化、学校英語教育や大学入試の改革、英検やTOEIC(R) テストといった英語試験の改訂、人々の生活スタイルや意識の変化などにより、日本人に必要とされる英語は大きく変わりました。そうした変化に対応すべく、アルクは「新SVL12000」をリリースしました。

1万2000語を収録するデータベース

アルクでは、それまで長年蓄積してきた膨大な英文データや、英米の大規模コーパス※1をもとに、「標準語彙水準12000」を20数年前にリリースしました。

SVL(Standard Vocabulary List)と呼ばれるこの単語リストでは、日本人の英語学習者にとって有用な1万2000語が、12レベルに分類されています。

SVLはデータベースであり、それ自体が学習用の単語チェックリストや、単語ドリルになるというわけではありませんが、リリース以来ほぼ四半世紀にわたって、英語学習と英語教育に活用されてきました。

SVLの単語レベル

例えばアルクが英語の教本や教材をつくるとき、編集者はSVLを指標に、どの単語を取り入れるか考えます。

「この本の場合、レベル7以上の単語には、注釈をつけたほうが親切だな」

初心者むけのこのテキストに、この単語はちょっと難しすぎるな。別の単語を使って、もっとわかりやすい例文をつくろう」

このように、ユーザーの英語力に応じて語彙選択を取捨選択する際の、よりどころのひとつとなっているのがSVLです。

学習者もまた、こうして作られた教材や学習書を介して、実はSVLを利用しています。

なかでも2006年に初めて出版された「究極の英単語」シリーズは、SVLの1万2000単語を網羅した学習書として、多くのみなさんに長年親しまれてきました。

使用頻度や浸透度もレベル区分に反映

世の中には、SVL以外にもさまざまな単語リストがあります。

大学生向けのリストには、大学での学びに役立つアカデミックな語彙が集められています。TOEIC、大学入試、ビジネス英語、留学、あるいは海外旅行のための英単語リストも、特定の目的に絞り込んだ単語が得意です。

英語を学ぶ理由がはっきりしている場合は、目的に特化したこれらのリストを使うと、効率よく学習がはかどることでしょう。

一方、SVLには、より万人向けの語彙が集まっています。特定の目的ではなく、一般的によく使われる語彙を集めたリストなのです。大人から、小学校で英語に触れ始めたばかりの子どもたちに至るまで、日本のあらゆる英語学習者向けに、1万2000語もの単語を集めてレベル分けしたリストは、ほかにはありません。

どのような構成になっているか、簡単にご説明しましょう。

レベル1に区分されている語は、もっともよく使われる、基本中の基本の単語です。当然、小中学生でも分かる、易しい語ばかりが並んでいます。

そこから少しずつ段階を追って、難しい単語が加わっていきますが、SVLのレベル区分は、必ずしも単語の難易度だけを示すものではありません。

例えばwrestler(レスラー)やsnowflake(雪片)といった単語がレベル10に、ensemble(アンサンブル)やgoldsmith(金細工職人)がレベル11に出てきたりします。「いやいや、この単語、さすがに上級レベルではないでしょ」と、首を振る方も少なくないかもしれません。

実はSVLのレベル区分は、信頼できる英米の大型コーパスや、複数の語彙リストのレベル区分を参照しており、現代英語における使用頻度や浸透度も考慮した区分けになっているのです。こうしたことから、難しい語ではないものの、あまり頻繁に使われず、急いで覚えなくてもよい単語は、レベルの数字が大きいカテゴリーに含まれる場合があるのです。

20数年ぶりにSVLが改訂されます!

とはいえ、言葉は生きています。日本語に新しい流行語や、死語となって消えていく言葉があるように、英語もまた新陳代謝を繰り返しています。

SVLが編纂(へんさん)されてから、すでに約四半世紀が流れました。もちろん20数年前に書かれた本を、今の私たちが読んで、理解できないことはありません。しかしその間、社会は大きく変わりました。

インターネットやスマートフォンなど、身の回りの技術が目覚ましく進歩し、大学入試改革や小学校での英語教育の導入など、教育面でも変革が起きています。

環境問題やパンデミックといった、世界共通の社会問題が深刻化し、ビジネスの世界でも新しい用語が次々と誕生。コンプライアンスやジェンダーの問題が一般化するなど、人々の意識も変化しています。

こうした時代の変化を映して、言葉も変わってきています。

そこでこの度、20数年ぶりにSVLを改訂し、収録されている単語をアップデートすることになりました。

語彙研究の専門として著名な、関西大学外国語学部の水本 篤教授、小学校英語教育、語彙指導に明るい、弘前大学教育学部の佐藤 剛准教授という、お2人の専門家の力をお借りして、編集部では2年がかりで掲載語彙の見直しを進めています。

SVL改訂では、何が変わるのでしょう

今回の改訂では、次のような掲載語彙の見直しが行われています。

① 昔は生活に密接していた語が、急いで覚えなくてもよい語に

令和の日本では、テレビ番組をビデオ録画することはめっきり減りました。英語圏の国でも同じです。旧版で、誰もが知っておくべきレベル1の単語だったvideotape(ビデオテープ)は、今回の改訂ではレベル6に変更されています。今はもう、急いで覚えなくてもよい単語になったことから、このように変更されたのです。

 同様に、急いで覚えなくてもよい、あまり使用頻度が多くないといった理由で、うしろの方(上のレベル)に出てくることになった語には、例えば次のようなものがあります。

  • atlas 旧level 3→新 level 8
  • cowboy 旧level 2→新 level 6
  • nightdress 旧level 5→新 level 9
  • shepherd 旧level 4→新 level 7
  • lavatory 旧level 7→新 level 11
  • stereo 旧level 2→新 level 5

② 上のレベルに入っていた語が、より低いレベルで学ぶ語に

ビジネスの世界にも、覚えきれないほど、新しい英単語が続々と入ってきています。実現可能性、実行可能性を表すfeasibilityもそのひとつです。旧版のSVLではレベル12でしたが、今回は使用頻度が上がったことを反映し、レベル 9で登場します。

より早い段階で学ぶようにレベル変更された語には、ネットや情報に関する語、子どもがよく使う単語なども含まれています。下の例にあるsquid(イカ)などは、絵本や図鑑にも出てきますので、子どもが知っていれば使ってみたい類の語でしょう。

改訂により、より低いレベルで学ぶようになった語には、以下のようなものが含まれます。

  • click 旧 level 5→新 level 2
  • programmer 旧level 9 →新 level 2
  • online 旧level 8→新 level 3
  • drone 旧level 11→新 level 5
  • squid 旧level 12 →新 level 3
  • compliance 旧level 10→新 level 7

③ 新しく加わった単語

今という時代を反映する、テクノロジー、情報、環境、健康、ジェンダー問題などに関連する単語や、子ども目線の単語が多数加わりました。「え?旧版には入っていなかったの?」と思うような単語もきっとありますよ。いくつか紹介しましょう。

  • availability
  • globalization
  • website
  • businessperson
  • liberalization
  • rainforest
  • ecosystem
  • smartphone
  • synergy
  • mom
  • yummy
  • metabolic

④ 削除された単語

1万2000語という枠のなかで、新語を追加するには、同じ数の語を削除しなくてはなりません。協議に協議を重ね、後ろ髪を引かれる思いで削除した単語が、実はたくさんあります。

例えば、faxやtypewriter。今でもこれらを日常的に使っている人は、多くないでしょう。airmail、discoといった単語も削除対象となりました。メールやオンライン会議の時代に、airmailのやり取りではとても仕事になりません。このように使われなくなった技術や、廃れた事象は、新SVLでは基本的に削除しています。

businesswoman、housewifeなど、ことさら男女の役割を強調する語も、改訂をもって退場しました。新SVLではhousewifeは消え、housekeeperが残っています。その一方で、男性限定のbusinessmanという単語は、今も一般に使われていることから、今回はそのまま残っています。

削除された単語は、知らなくていいというより、学習の優先順位としては低い単語として、考えていただければと思います。

※1 コーパス Corpus:言語研究のために集積され、データベース化された言語資料群。

次回は新SVLと各種英語試験の関係についてお届けします。どうぞお楽しみに。

取材・編集協力 :田中洋子/ライター

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ENGLISH JOURNAL編集部

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